4 顎関節に関連した全身疾患

顎関節に関連した全身疾患(線維筋痛症,腰椎ヘルニア,頸椎ヘルニア,むち打ち症,更年期様症状の治療)

全身と咬み合わせの関係は

食事をする時に食物を咬みつぶすことを咀嚼といいます.アゴの関節の位置と咬み合わせた位置があっていれば,通常,食塊を20~30回位は咀嚼します.そして,消化や抵抗力を増す唾液を十分に分泌します.しかし,アゴの位置と咬み合わせがズレていれば十分な咀嚼はできず,唾液の分泌も悪くなります.
アゴの位置と咬み合わせがズレていれば,放っておくと全身へいろいろな障害がでてきます.
顎関節症であれば,アゴの関節 / 耳の周辺(顎関節部)に痛みを伴う,痛みがなくとも口が38mm以上開けられない,38mm以上口は開けられるが口を開けると左右どちらかに傾く,口を開けたり閉じたりするときにコリッと音が鳴る,緊張性頭痛,片頭痛,耳鳴り,肩こりをはじめとして首の痛み,めまい,頭重感,手指のしびれ,腰痛,力が入らない,全身倦怠感,血圧の変動など人により症状が異なる病気です.

時には急にめまいがして倒れたり,力が入らずに歩けなかったりします.人により様々な症状を訴えるのが特徴です.内科的に何の異常もなかった場合などこれに当てはまります.
さらに,アゴの関節に痛みやクリック音などの症状を訴えなくても,人により慢性頭痛,腰痛,力が入らない,全身倦怠感,血圧の変動,肩こり,脱力感,やる気がない,抑うつなどの症状がある方も咬み合わせの診査では顎関節症のその他の分類に当てはまる場合があります.
例えば 顎関節症,初期のヘルニアによる腰痛,むち打ち症,更年期様症状で体調不全を生じている場合や歯ぎしりなどは咬み合わせを改善すること(咬合治療)で早期に治ることもあります.

脳と咬み合わせの関係は

咬むことは脳の前頭連合野と側頭連合野を刺激し,脳内ホルモンを活発に分泌させます.前頭連合野は思考,学習,推論,意欲,情操等の人間らしさを司る分野で,側頭連合野は形の認識,記憶,聴覚や他の連合野領域の中継となる分野です.
例えば,おなかは空いていないのにピーナツを食べ始めたら止められないという行為は,咬むことで前頭連合野と側頭連合野に刺激を送り,L-グルタミン酸,ドパーミンなどの脳内物質(神経伝達物質)を出させることで,精神を安定させているからです.
正しい位置で咬むこと,言い換えますと,適正な顎関節の位置と咬み合わせがあっていることで,精神を集中させることができるので,精神安定や脳のはたらきのためにとても重要です.
また,原因不明の疼痛やMyofascial Pain/MPS, 筋・筋膜痛/ 線維筋痛症も脳などの中枢系に関連している場合もあり,顎関節症の分類のその他として取り上げられています.

歯ぎしり・ブラキズムの原因は(歯ぎしりは咬合治療で治るの?)

歯ぎしり(ブラキズム)はストレス性のものと,アゴの関節に由来する器質性のものがあります.
アゴの関節に由来するものは顎関節症と呼ばれ,咬み合わせた位置とアゴの関節の位置が異なる(ズレている)ことで,寝ている間のノンレム睡眠中に無意識下で自分の歯を削って咬み合わせとアゴの適切な位置にあわせようとする行為ですが,歯ぎしりを続けても,小児期の乳歯歯列の歯ぎしり以外,大人の場合の歯ぎしりは自然に治ることは少ないようです.このような場合,歯列矯正などの咬み合わせ治療によって,良くなると歯ぎしりは止まります.
また,ストレス性の歯ぎしりも,このような顎関節治療で治る場合もあります.

片頭痛とかみ合わせの関係は(片頭痛は咬合治療で治るの?)

 天気が崩れ,雨が降る前に頭のどこか決まった部分に片頭痛がおきませんか?  脳外科でも異常なしと診断されたときは,顎の位置がずれていることが多いようです.このような場合は咬合検査を必要と考えます.

腰痛と咬み合わせの関係は(腰痛は咬合治療で治るの?)

腰痛の原因は体軸の彎曲によって脊椎や筋肉の異常で起こる腰痛,内臓疾患から起こる腰痛ならびにストレス、心身症、ヒステリー、うつ病などによる精神的原因で起こる腰痛があります.
このうち,体軸の彎曲によって脊椎や筋肉の異常で起こる腰痛はアゴの位置を変えてやることで治る場合もあります.また,ストレス,心身症,ヒステリー,うつ病なども長期の咬合治療になりますが,咬合治療で軽減したり,改善することもあります.
通常,重いものなどを持ったり,過度のスポーツで急にぎっくり腰になった場合は,スプリント療法でその場で腰痛はとれます.
内臓疾患から起こる腰痛は胃,腎臓,脾臓の炎症性の疾患や尿路結石,腹部大動脈瘤,子宮内膜症,腹部や腰部の腫瘍や癌などで原因疾患の治療が必要です.

むち打ち症と咬み合わせ (むち打ち症は咬合治療で治るの?)

むち打ち症は追突事故,激しいスポーツ時や頭に重い物が落ちたときの衝撃などで首(頸椎)が間接的な衝撃を受けたときに,むちのようにしなる動きをすることによって頚椎をとりまく軟骨(椎間板),靭帯,筋肉など組織や血管や神経までダメージを受けることが原因です.首の痛み,頭痛,重い肩こりをはじめとして人それぞれに症状が異なる不定愁訴が続きます.むち打ち症の特徴は,直後には自覚症状はないか軽い痛みなのですが,受傷の1~2日後から1週間で症状がひどくなることも多いようです.ほとんどが,頸部局所症状の首の後ろの部分の痛みやこり,緊張感などです.むち打ち症の大半は、発症してから4~5日ですこしづつ症状が治ってきて1~2週間もすればか後遺症もなくなり軽くなり,やがて無症状になることが多いようです.
しかし,重症になると頚椎損傷や椎間板(首の)ヘルニアになることもあります.首の熱感やこわばり,背中の痛み,肩の痛み,頭痛や頭重,胸の痛みやしびれ,だるさなどが現れるたり,意識障害,目のかすみ,めまい,耳鳴り,難聴,嚥下痛,腰痛,下肢痛などがみられる場合もあり,いくつかの症状が重なるケースも多いようです.患者さんは何とも言えない首やその周囲が痛く,身体が重く,吐き気などや憂鬱な気分が続き,何をするにも精神的に苦しいと訴えることが多いようです.
むち打ち症には症状により4つのタイプに分類されています.
むち打ち症全体の70~80%を占める靭帯が引き伸ばされたり,傷ついて捻挫を起こした状態の頚椎捻挫型,頚椎神経が圧迫されて首の痛みのほか、腕の痛みやしびれ、だるさ、後頭部の痛み、顔面痛などの症状を招く根症状型 (咳やくしゃみ,首を横に曲げたり,回したり,首や肩を一定方向に引っ張ったときに増強します),後部交感神経症候群とも呼ばれ,椎骨動脈の血流が低下して後頭部や首の後ろの痛み,めまい,耳鳴り,難聴,目のかすみ,眼精疲労などの症状のバレ・リユウー症状型 (ときに知覚異常や声のかすれ、嚥下困難、胸部の圧迫感もあります),下肢のしびれや知覚異常が起こり,歩行障害が現れる脊髄損傷や圧迫を受けた場合に脊髄症状型があります.

むち打ち症は咬合治療を早めに受けることで頸椎損傷に加わる負荷をやわらげ,全身への影響を抑えることができます.また,むち打ち症が牽引,温熱療法,針治療,レーザー治療などで長期に改善しない場合でも咬合治療はある程度有効です.

更年期様症状と咬み合わせの関係は(更年期障害は咬合治療で治るの?)

更年期障害は卵巣の機能が衰えはじめて女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に変調する閉経をはさんだ45~55歳位の前後10年に発症する身体的,精神的不調 の症状で,ほてり,発汗,肩こりや頭痛,イライラや憂鬱など更年期障害の症状はきわめて多岐にわたります.
卵巣機能低下(エストロゲンの減少)によるものや自律神経失調による症状で,症状は個人によって現れ方や強さはまったく異なります.診断は上記の自覚症状のほか,血中のエストラジオール濃度,FSH(卵胞刺激ホルモン)濃度などを検査します.血清脂質,骨粗鬆症,高血圧,動脈硬化などの2次疾患を招くこともあります.更年期障害の治療には多くはエストロゲン補充療法(女性ホルモン補充療法)が有効で,この他,精神症状には精神安定剤や漢方療法が用いられることもあります.

更年期様症状は身体的,精神的不調 の症状で,ほてり,発汗,肩こりや頭痛,イライラや憂鬱など更年期障害の症状と類似しています.原因の無い生理不順など,体軸のひずみが原因によるもので,内科診断で異常がない場合は,更年期様症状や生理不順は咬合治療で改善する場合があります.

統合失調症と咬み合わせ(統合失調症の症状は緩和するの?)

統合失調症は100~120人に1人が罹患する最も多い精神病の一つで,年齢に関係なく発病しますが,14歳~35歳代頃までの発病が多くみられます.病態は多くの遺伝子と多くの環境との相互作用が関係して,神経伝達物質が過剰に働いてしまうことで,情報伝達に混乱をきたして色々の症状が出現し,脳の働き(機能)が障害されて現実を正しく判断できなかったり,感情のコントロールや正しい意思決定ができなくなったり,よい対人関係をもつことが困難になる病気です.
統合失調症の症状は多彩で,誰かが監視している,誰かが自分をあやつるなどの妄想,現実にはない声に話しかけられたり,命令されたりする幻聴,混乱した思考とまとまりのない会話や行動,落ち着きのなさ,まとまりのない知覚,感情の不安定さ,感情鈍麻など,思考内容の貧困化,意欲減退,閉じこもり,注意・集中力の障害などもみられます.
急性期の症状は
1)妄想(妄想気分,妄想知覚,妄想着想)
2)思路の障害(話題に一貫性がなく矛盾や飛躍)
3)幻覚(幻聴,まれに幻視)
4)自我意識の障害(自分の行動が他に操られている)
5)感情障害(喜怒哀楽に乏しく,冷淡,無関心)
6)意欲障害(根気がない,怠惰な生活)
7)行動障害(同じ場所に同じ姿勢でうずくまる,空笑,ひとりごと)
8)対人関係(自分の世界に閉じこもる,食事や薬物の拒否)など
統合失調症の仮説ではドーパミン仮説が主に統合失調症の陽性症状を説明するのに対し、グルタミン仮説は統合失調症の陽性症状と陰性症状の両方を説明しています(聖マリアンヌ医科大十文字学園女子大脳科学から見た統合失調症より).
統合失調症の治療法の基本は薬物療法です.統合失調症治療薬には抗精神病薬,持効性抗精神病薬,非定型抗精神病薬などがあります.定型抗精神病薬と呼ばれる従来の治療薬に加え,新規抗精神病薬が開発されたことで,幻覚や妄想を消失させるだけではなく,治療の根本である社会復帰が少しだけ可能になりつつあります.その他に病状の回復や程度に応じた精神療法やリハビリテーションも行われ,症状が激しい時期の治療には抗精神病薬が特に効果を発揮し,急性期でも慢性期でも再発を防ぎ精神療法やリハビリテーションをスムーズに進めていくためには,長期にわたる薬物をきちんと飲み続けることが必要です.薬物療法は薬を止めると再発の可能性が高くなります。

統合失調症の慢性期のリハビリテーションの一つとして,咬み合わせの異常を訴える場合は,スプリント療法があり,症状が少し軽くなります.しかし,薬物療法の服用を止めれば効果はありません.治療期間中に何度も長時間電話されたり,突然,医院や主治医を悪く考えたりしますので薬物療法とスプリント療法を併用してください.

うつ病と咬み合せの関係(うつ病は咬合治療で治るの?)

  大うつ病についての「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」の2つの主要症状が基本とするDSM-IVの診断基準が用いられていますが,うつ病と躁鬱病は4割程の誤診があるので,光トポグラフィ検査により血流量の変化のパターンにより診断します.
うつ病の原因は2つ考えられます.
一つは脳内物質のひとつのセロトニン不足に由来するもので,セロトニンの絶対量の不足,シナプスでセロトニン受容体の不足とセロトニン反流の際の請け戻しの不良が挙げられます.この場合,抗うつ剤が有効です.
二つ目は脳の扁桃体の興奮に由来するもので 扁桃体の役割である不安・恐怖・悲しみを感じることを暴走することで、うつ病となります.TMS / 経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation)は、おもに8の字型の電磁石によって生み出される急激な磁場の変化によって (ファラデーの電磁誘導の法則により) 弱い電流を組織内に誘起させることで, 脳25野 の脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法です.この方法により,最小限の不快感で脳活動を引き起こすことで、脳の回路接続の機能が調べられ,前頭前野背外側部 / DLPFC (dorsolateral prefrontal cortex)を活性化することで,扁桃体の興奮を抑制させますが,DLPFCやDLPFCと扁桃体のシナプス回路になんらかの障害により,遮断されることでおこります.DLPFCの血流を増させ,扁桃体の役割である不安・恐怖・悲しみを感じることの暴走をDLPFCは抑制します.
 DLPFCは 1.判断や意欲 2.扁桃体の暴走を押さえることで,7割の回復率で月に1度の治療が必要ですが,2012.3月現在日本ではまだ保険導入はされていません.
 咬合治療は直接うつ病を直すことは稀ですが,うつ病を和らげ,手助け的な手法としては有効だと考えます.

 

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