こども期の脳のはたらき

【 脳のはたらき・こども期】

こども期の脳のはたらき

こども期は精神的・肉体的に成長をする最も重要な時期です.この次期,体の健康と心の健康が必要です.
こども期の特徴は見るもの,聞くもの,触るもの,経験したことなど全てを脳で記憶して,情報を整理しながら反復学習する次期です.では,脳の仕組みはどうなっているのでしょうか.


1. 脳の解剖と役割

1) 脳の解剖
脳は大きく分けて大脳半球(左脳・右脳),脳幹,小脳で構成されます(図1)
大脳半球は顔,手足,胴体の運動中枢や痛みの感覚の頭頂葉,人間らしさ ( 知性,感情,意志,意欲,創造力 )・言語中枢の前頭葉,言語中枢,視覚中枢の後頭葉,聴覚中枢,記憶の蓄積の側頭葉,右脳と左脳をつなぐ神経線維の脳梁からなります.
男女の脳を比較しますと,形態的な相違が脳梁にみられます.女性はやや球状となり,男性は棒状です.脳梁は男性より女性のほうが約 20%大きく,女性は言語能力に優れています.胎生4~7カ月でアンドロゲンの分泌により男へ,なければ女の脳へ発達していきます.
脳幹は脊椎動物が誕生した頃にできた生命維持のはたらきが主で,間脳,中脳,延髄からなり,間脳は不随意な感覚情報の中継基地である視床と生命中枢 ( 本能的行動支配 )である視床下部からなり,中脳は反射性の機能を調節,延髄は自律神経の核からなります.
小脳は体のバランスを制御します.

 

【図1右】脳の横断面 【図2左】5つの連合野のはたらき


2) 脳のはたらき

こども期は自分の意見がまとまらず他人の意見・特に親や友達の意見を気にし,左右されます.友達の意見を聞いてそれが善いのか悪いのか,どうなるのかを自分なりにまとめていく時期でもあります.
脳には5つの連合野の働きが (図2) あり,体を動かす指示をする運動連合野,感覚情報を分析し,空間を認識する頭頂連合野,視覚,言語機能など視覚情報からより有用な情報を引き出す後頭連合野,思考・学習・推論・意欲・情操・理性・表現などと人特有の知性,感情,意志で人間らしさを司る前頭連合野と形の認識,記憶,聴覚などの中継となる側頭連合野で構成されています.また,右脳と左脳のはたらきも異なります.右脳は話すこと,音楽,表情や絵画の構成など姿勢やバランスを保ち,左脳は計算,声や音の認識,会話,読み書きなど運動脳として働きます.
遺伝子は1.35%しか違わず,3歳くらいまでは人の幼児と同じように脳の発育をするチンパンジーと人の脳の違いは,人間らしさを司る前頭連合野の占める割合が,チンパンジーは人の半分位しかありません(脳全体から前頭連合野の占める割合は人は30%,チンパンジーは15%,ネズミは3%).これが,人が成長した時に考えはじめる・意志 → 計画 → 案 → 推敲 → 成功への努力→ 反省など人間らしさが社会生活を営む人間に最も必要な分野です.


2. 記憶と感情

1) 記憶

人間の脳は大きく分けて2種類の記憶から成り立っています.しばらくすると忘れてしまう記憶「短期記憶」と,ほぼ永久的に覚えていられる記憶「長期記憶」です.
すべての記憶はいったん脳の奥の海馬という部位に保存されます.この状態を「短期記憶」と呼びます.海馬内で情報の取捨選択が行われ,これはずっと覚えておかなければならない記憶だと判断された記憶は大脳新皮質に送られます.大脳新皮質は、化学的・電気的刺激を伝達する約150億個もの神経細胞がニューロン(神経回路)とニューロンをつなげているシナプス(神経伝達)で成り立っています.私たちが記憶と呼ぶものはこのニューロンネットワークの情報伝達でつながれたものです.

(1) シナプス(神経伝達)とニューロン(神経回路)の成長

人間の脳には大脳半球という部位があり,俗に「脳のしわ」といわれる部分です.ここは左右一対になっていて,脳梁と呼ばれる部位でつながっています.この大脳半球の表面は、大脳新皮質と呼ばれるわずか3ミリ程度の薄い膜のようなもので覆われています.このわずか3ミリ程度の大脳新皮質は人間が人間であるゆえんである様々な活動、主に言語、視覚認識、思考、計算、理性などを司るといわれていて,ここにある150億個もの神経細胞とニューロン(神経回路)をつなげているシナプス(神経伝達)が複雑な情報ネットワークを形成し,外部からの様々な情報を処理しています.
脳のはたらきは神経細胞が複雑なシナプス(図3,4)によりニューロン網(図5)という回路で繋がっています.丁度,一つのパソコンからインターネットを介して,同時に全世界の情報を得たり,メールで意思の疎通ができる仕組みと同じです.この回路が複雑な程,頭がいいということになります.そして,このシナプスの伝達物質である脳内物質が110種類はあるといわれており,この脳内物質の種類によって感情が生まれます.
少し研究されている脳内物質を紹介しますと,

ドーパミン やる気,快感,陶酔感など本能の快感を刺激して,恋愛やひとつのことを成し遂げた充実感などはこの作用の一つです.
アセチルコリン 頭が冴える,学習,目覚め,集中力,積極性などシナプス伝達物質 に関与し,アルツハイマーでは減少 しています.
ノルアドレナリン 不安がよぎる,うつな気持ちなど交感神経から放出される怒りや驚きの伝達物質です.
セロトニン, メラトニン 前向きな気分など情動系に刺激・覚醒,睡眠,意欲に関与し,不足すると鬱になつたり,性欲,食欲亢進します.セロトニンが慢性的に減少すると自殺へとつながる危険性もあります.
βエンドルフィン, エンケファリン 痛みの緩和,幸福感などの感覚が麻痺,
L-グルタミン酸 平常心,記憶の伝達作用に関係します.
アンダナミン 陶酔状態 などマリファナ作用,
ギャバ, γアミノ酪酸 リラックスさせ脳の興奮を抑制 するなどの働きがあると報告されています.

 

  

左から 【図3】一つの神経細胞から伝達する 【図4】シナプス伝達には何種類もの伝達物質 【図5】ニューロンのネットワークが形成される

例えば話しをしている時には側頭連合野の一部しか脳は働きませんが,言葉と発話について同時に考えている時は脳の違った色々な部分が働くのです(図6).思いたったことをそのまま話すより,内容を考えてから言葉を選びながら発話をすることが,脳をより活性化させることができるのです.話し上手な人,人を感動させるスピーチができる人はこれらの部分が活発に働いているのです.このように物事を考えることを続け,くり返すことでニューロン網(ネットワーク)が形成されていきます.
研究などで一つことを追い求める時はアセチルコリンの働きで頭が冴えて集中し,あらゆる方面から考える時などはニューロンネツトワークを最大限働かせ,さらに,結果である新情報は新記憶と旧記憶のネットワーク形成をする.そして,結論が出たときはドーパミンにより達成感に満足し,学会発表で再びドーパミンが出て,理論が評価された時にはアンダナミンによる陶酔感を覚え,論文にして後で読み返すときはエンドロフィンによる達成感を味あう.こんな図式ではないでしょうか.
増齢に伴なって脳細胞は死滅していきますので,記憶力は落ちていきます.
しかし,昔から老人の知恵を借りろと言われますが,物事の情報を整理して総合的に考えるはたらきはニューロンの形成によるということです.70歳まではこの総合判断力は形成されますから,わからないことがあったら老人の意見を聞くのもいいものです.

【図6】ニューロンネットワークの一例で,話している時と言葉と発話について考えている時では脳のはたらきが異なり,赤くなっている部分がシナプス伝達が活発に活動し,ニューロン網を形成している.このように過去の記憶である,言葉,発話,経験,情動などををたどりながら多くの部で脳は働く.

このように,情報伝達がくり返し行われシナプスが強固に連結すると長期記憶と呼ばれる記憶になります.一般的に長期記憶をするためには何度もくり返し脳に反復刺激を与えるのが良いとされています.覚えたいことを何度も紙に書き写したり,ぶつぶつと口で唱えたりするのはそのためです.ひとにより,1度で覚えられる人,10回で覚えられる人,など様々です.


(2) 右脳と左脳

ニューロンの情報処理ネットワーク網がどれだけ緊密に張り巡らされているかが、脳の働きの良し悪しを左右していると考えられています.大脳半球の左側を左脳,右側を右脳といいます(図7)
左脳は優位半球または言語脳と呼ばれ,身体右半分の運動や知覚を支配し,言語,会話,概念,計算,声や音の認知,論理的思考などを司ります.
右脳は空間・感性的でイメージ脳と呼ばれ,身体左半分の運動や知覚を支配,イメージ,図形,音楽,表情を読み取る,視覚的情報の総合把握・直感的思考やなどを司っています.
将棋の天才棋士は、頭の中を盤面がビデオの早送りのように高速回転し,一局丸ごと記憶しているといわれます.右脳を使いイメージとして覚えているので直感的ひらめきをプラスでき,誰も予想できない一手を打つことができるのです. 日本サッカーの司令塔を担うプレーヤーは、空間把握力と瞬間判断力が優れているといわれます.空間把握力は右脳の役割で,優れた瞬間判断力は左脳に蓄積された知識や経験などいくつもの出来事を同時に判断できる右脳で処理することによりはじめて可能になるのです.

【図7】思索家型は左脳,特に前頭葉をよくはたらかせる論理的・抽象的に考え,芸術家型は右脳と左脳間の交流が強く,いろいろなものごとを関連付けて考えます. 勉強するときは両方の脳を使います.
脳のはたらきは何をやるかによって右と左のはたらきがすこしづつ違うのですが,右手でボールを投げたり,右手でおはしを使うようにな「右手をたくさん使う人」はほとんどが左脳の前のほうで言葉をしゃべったり人の話を聞いたりしてます.右脳は相手の気持ちがわかるようになっているようです.「おとうさん・おかあさんは今日はきげんが良いなあ」とかは右側の脳の前のほうがはたらいていることがわかってきました.音楽などはその聞き方で脳のはたらく場所を変えることができます.音楽のメロディーを聞こうとすると右脳がはたらいて,音楽の歌詞とか音符のことを考えながら聞くと左側がはたらきます.脳のはたらきはまだまだわからないこともありますが、どうやら右も左もちゃんとつかっているようです.

人は年を取るにつれ左脳だけを酷使し,右脳を使わなくなるといわれています.社会の規律も人類の経験的な暗黙のルールで,発生は人とその家族からですので,左脳の分野かもしれません.イメージで社会規律は理解できません.人それぞれのイメージがあるのですから.
左脳だけでも70歳までは総合判断力は形成されます.それ故,右脳をで養ったイメージ経験もひとつの社会のシステムでは到達・緩和されて社会ルールを考える左脳の機能が優先し,要求してきたからですが,使わなくなってしまった右脳にはパワーが秘められています.もっと右脳を使うことも必要です.

苦痛を強いる反復は脳の働きを低下させ、記憶の効率も悪くなるという悪循環をひき起こしてしまいます.

こども期に無理矢理机の前に座らせて勉強させたり,叱りながら勉強させる(気持ちもわかりますが)ことより,自発的に勉強ができる体性に持っていくのがいいでしょう.幼児期は母親との会話を欲します.台所で炊事をしながら,幼児に読み書きを気長に楽しく教えたり,クイズ的に物事を教えるのも効果的です.幼児期からこども期に移行する時には本を読み,理解する楽しみを教えると,その後は独りでに勉強しはじめます.

2) 記憶法

人間は一般的に自身の脳の3~5%しか使わずに生活しているといわれています.残りの95~97%のいわゆる潜在能力は,ほとんど使われることがないまま一生を終えてしまいます.
潜在能力を上手に引き出して活用している人が天才や頭が良いと呼ばれる人です.記憶法により誰でもは脳が持つ2つの特性をうまく活用し,正確な長期記憶を可能にします.

脳が持つ2つの特性とは
(1) すでに長期記憶になっている記憶に関連した新情報は長期記憶になりやすいこと,
(2) 脳内に伝達される情報が感情的に興味あるものであれば,脳の神経組織はさらに活発に活動する
ことを利用します.
好きなスポーツ選手やアイドルの情報はすぐに記憶できる,空から魚が降ってきたという普通では考えられない経験をした人はその経験をずっと忘れないなどです.新たに覚えたいことをすでに覚えていて絶対に忘れないことと結びつけて記憶する方法(基礎結合法)がより記憶を延ばします.
例えば,新たに覚えたいことを体の名称(頭、目、鼻、口…)などに結びつけて記憶すると (1) のすでに長期記憶になっている記憶に関連した新情報は長期記憶になりやすいという脳の特性から,無理なく情報を長期記憶にすることができるはずです.このときイメージ力(連想力)があれば (2) の脳内に伝達される情報が感情的に興味あるものであれば、脳の神経組織はさらに活発に活動するという脳の特性を活かします.
具体的には普通では考えられない経験をイメージ力によって連想し,いわば擬似的に特異な経験を作りだすことで,脳の神経細胞を活発に活動させて覚えたい情報を長期記憶へと導いていきます.要は右脳と左脳を同時に使うのです.
基礎結合法を使った覚え方の例として,学校の帰りに買い物(牛肉,タマネギ,白菜,しらたき)を頼んだとします.これを身の頭,目,鼻,口と結びつけ記憶させ,牛に乗って学校に行き,友達とタマネギを剥いて目から,しらたきのような涙が出て,白菜で拭いた.
非現実的でおかしな話ですが,この強烈なイメージがあれば覚えていられます.
このように記憶と記憶を結びつけるものは何でもかまいません.こどもが好きなもの,クラスメート,テレビの番組の登場人物,何でもかまいません.右脳の働きを活性化させて潜在能力を引き出す役割も果たします.面白おかしいイメージを楽しみながら勉強し,楽しいと感じることにより脳の働きが活発になり,勉強の効率もさらにアップしていくという記憶法もおもしろいかもしれません.


3. 感情のコントロール

1) 心理学からの感情実験

心理学では古典的学説,キャノン・バード説 では人は悲しいから泣く,怖いから逃げるとなりますが,ジェームズ・ランゲ説では泣くから悲しい,逃げるから怖いのだと主張しました. つまり,まず身体の反応がおきてそれを感じることで感情が起こると考えたのです.

顔面フィードバック説とは感情の刺激が顔の表情にまずでて,そこから感情を感じるという説です. また,シャクターの情動二要因理論とはシャクター(1964)は被験者にビタミン剤と称して興奮作用のあるエピネフリン を注射されました.その後,陽気に振る舞うサクラの行動を観察してもらいました.すると被験者が生理的に興奮させられていると知らされている群に比べて,より 幸福に感じました. 逆に怒ったサクラの観察ではより怒りを感じていました.つまり,生理的な喚起に対してそれにたいしてのラベリングすることの2つの要因によって 感情が決まるということです.同じ興奮でもそれが周りの状況などの認知によって変わってくる ということです.
似た実験に吊り橋実験があります.この実験は男性の被験者に高くて揺れる吊り橋を渡ってもらいます.(怖いから生理的興奮が起こる) 橋の中央で女性がアンケート調査に協力してくださいとアンケートを頼みます. そしてアンケートの回答後,女性が電話番号入りの名詞を渡しました. 同じ事を揺れない橋でも行いました.すると,吊り橋で行った群の方がより電話がかかってきたそうです. つまりドキドキしている→好きなのかも? となったわけです.
また別の実験では被験者は20の図形刺激を5回ずつ瞬間呈示された後,新しい図形と比較してどちらが好きか答えてもらい,さらに どちらを先ほど見たかも答えてもらいました. するとどちらを見たか(再認)はできなかったのに,呈示された刺激のほうを 好きと反応することが多かったそうです.つまり,ただ見たという認知的判断なしに感情が生じたと言えます. これを 単純呈示効果(単純接触効果) といいます.この理論と先の認知が関与するという説と対立しています.

感情には怒り,嫉妬,悔しさ・後悔,寂しさ・孤独感,不安,自己嫌悪・罪悪感,虚しさなどがあります.上記の実験群から解るように記憶の善し悪しのニューロンネットワークとは類似して,感情とその表現のニューロンネットワークは異なった脳内物質のシナプス伝達と記憶が絡んでいるようです.

2) ニューロン遮断・回避分析から

ニューロンの一部を遮断されると色々な回路に情報が伝わらなくなります.これらは,殴られることによってできる脳の傷(少年院の子供たちの90%が脳の一部に傷があります),体罰や言葉の暴力によって遮断される回路,親が感情で子供を叱ることによる情動を理解できない子供,インスタントやレトルト食品によるバランスのとれない栄養による脳内物質の偏りや環境ホルモンが正常な脳内物質を阻害することが原因です.
まちがった情報をすり込むこともよくありません.歯科でいうなら「悪いことをすると歯医者さんで注射してもらうよ,とか,歯を抜いてもらうよ」などと理解・教育すべきところを,間違った情報伝達と同時に恐怖を妄想させて第三者に押し付けることも善くない言動です.実際に歯が痛くて歯科医院に来たとたん泣いて騒ぎ立てて,暴れてしまいます.そのようなこどもに限って.虫歯が多いのも事実です.
こどもへ理解という脳のニューロンネットワークの形成をさせず,第三者による妄想的恐怖とお菓子などグルタミン酸で脳を沈静化する行為は,言わば「アメとムチ」的な感情コントロール法です.むし歯の多いこどもはこのような教育してきた証とも言えるでしょう.

3) 自己感情のコントロール

怒り,嫉妬,悔しさ・後悔,寂しさ・孤独感,不安,自己嫌悪・罪悪感,虚しさなど様々な自分の感情をコントロールする必要があります.頭ではわかっていても感情によって考えや行動が変わってしまい,感情をうまくコントロールできるようになれば,人に迷惑をかけたり,不幸に陥ることも減り,幸せに暮らしやすくなると思います.

感情をコントロールするためには (1) 物事の受けとめ方を変える, (2) 考え方を変える, (3) 気分を変えるの3つの方法を幼児期から自然と教え込むことが大事です.難しいようですが,道理に反する時には叱り,単に親や保護者の感情でこどもを叱らなければ自然に感情のコントロールを覚えるのですが・・・.
後でお話ししますが,食事や環境ホルモンも相当関係します.肉類主体の偏食は怒りっぽくなりまし,食べないと体力が落ち,気力も低下してきます.寝ている時に脳内物質が作られますので,不眠も気分転換はできません.環境ホルモンは脳内物質を阻害しますので,感情や行動は普通ではありません.
ここでは感情のセルフコントロールについて話します.

(1) 物事の受けとめ方を変える
物事の受けとめ方は人によって異なり,同じ悪い事があっても,大きく動揺してしまう人もいれば,平然としていられる人もいます.受けとめ方によって感情の発生が違うのです.これは脳内物質の種類と量によるものですので,  自分の暗号などを決めて・・例えば「オイ・オイなど」,物事を受け止める際に「オイ・オイ」と暗号を唱えて別の自分の感情を受け入れることで,感情の爆発を防ぎます.漫才で間をおいて笑いをとるということがありますが,まさに,嫌なことは冗談で返すのも一つの方法です.

(2) 考え方を変える
イヤな事を考え続けているとイヤな感情がいつまで消えません.イヤな事やイヤな人のことを繰り返し考えていたらイヤな感情はいつまでたってもおさまりません.さらには悪い考え方をしてしまい,誰が悪い,思い通りにならない,許せないなどと考え続けたら,いずれ自分が統合失調症になってしまいます.
第一におこなわなければならないことは感情をうまくコントロールできることです.感情がコントロールした後にゆっくりとその原因究明や問題解決をしましょう.
日頃から気分よく過ごそう,幸せに暮らそう,将来を夢見ようと心がけることだと思います.自分の考え方を変えれば,他もいろいろ変わるのです.

(3) 気分を変える
いいことがあればいい気分で過ごせるし,悪いことがあれば悪い気分になってしまいます.悪い感情は気持ちをコントロールできなくなってしまいます.そこで,イヤな事を早く忘れるためにも,上手な気分転換が必要です.気分がよくない時やイヤな事があった時には自分の悪い気分に気づいて,気分を変えようと考える習慣をもつことが必要です.スポーツや音楽など趣味性の高いものもいいですね.また,初期ですと充分な睡眠もいいですね.脳内物質は寝ている時に作られますから.
(4) 努力する
全てのことには努力が必要です.勉強するにも,将来計画をたてるのも,友達と楽しく過ごすのも,家族と楽しく暮らすのも努力しなければなりません.
感情はある程度コントロールできる人とできない人がいますし,心の底から悪感情を消し去ることもできません.でも,少しでも気もちが楽になれたり,ある程度気分を落ちつかせたら,ふつうに生活すればいいのです.後は食事を代えてみてください.

4) キレない脳の発達のために.

脳は遺伝子に左右されるだけではなく,大部分が環境によって18歳くらいまで発達します.
脳の神経細胞は意識下で発達していきます.特に,五感を使って水面下で発達していく力が大きく,体を動かしながらコミュニケーションを繰り返していくことが必要です.言い換えますと,ひとつひとつの脳細胞で覚えた情報をいろいろなヒトの持つ感覚でとらえることが大事だと思います.
小さい頃に親や親しいヒトに体を転がしてもらったり,遠足に行ったり,泳ぎにいったり,何か一緒に遊んでもらったことはよく覚えていますよね.その時の親や親しいヒトの顔は笑顔が思い浮かぶのではないでしょうか.本当に笑顔で遊んでもらったのかは定かではありませんが・・・,これは自分が楽しかったことを記憶し,親や親しいヒトの笑顔を扁桃体で覚え,遊んでくれた,嬉しかったことをと前頭前野の46野で記憶し,五感で覚えているからです.
これを例えると,前にも書いていますが,左脳は優位半球または言語脳と呼ばれ,身体右半分の運動や知覚を支配し,言語,会話,概念,計算,声や音の認知,論理的思考などを司り,右脳は空間・感性的でイメージ脳と呼ばれ,身体左半分の運動や知覚を支配,イメージ,図形,音楽,表情を読み取る,視覚的情報の総合把握・直感的思考やなどを司っていますので,これらは体を一生懸命に動かしながら,声を張り上げて,友達と一緒に,慣れ親しんでリーダー格である先生と一緒に楽しく遊ぶとします.リーダー格である先生がいることで,友達の誰にも気兼ねする必要はないし,善い悪いを教えてもらえます.とんでもないことをしない限り叱責はされませんし,注意程度ですみます.みんなと遊ぶことで遊び方の工夫や順番,こうしたら友達に迷惑がかかる,かからない,面白い,面白くないなどを覚えていきます.そうすると,楽しいこと,してはいけないこと,強調して遊ぶことなどを脳神経回路がいろいろな方向からつながっていくことで五感で覚えていくのです.言い換えますと,キレないこどもの脳 = 協調性のある脳 が作り上げていかれるのです.

現在解っていることで,脳の発達でキレない脳は
扁桃体・・・なじみのヒト(親,父兄,兄弟,先生,友人など)の笑い顔に特に反応します.
前頭前野の46野の発達・・・相手の表情,会話などのコミュニケーションをとることで発達します.
小さい頃,自分によく微笑んでくれた人も,思い浮かべるときは記憶の中にその人の笑顔が焼き付いていますよね,逆に,叱ってばかりいた人の顔はあまり記憶にありません.これは扁桃体で笑顔に興味を示し,覚えるからです.
ある幼稚園ではじゃれつき遊びを30分おこない(じゃれつき遊びは体を一生懸命動かすため入ってくる刺激が大きい),先生の合図で止め,跡片付けをおこなうことを毎日おこなっています.ここで大事なのは止めるという行為です.これは,先程述べましたように,脳の興奮と覚醒の訓練となります.やがては遊びと仕事が両立できるようになります.この幼稚園のこども達の感情のコントロールは小学生の5,6年生と同じ位だということです.
また,少年院のこども達は怒りをコントロールする能力が劣っている(言い換えるとキレるこどもです)場合が多いと言われています.この子たちも,身近な人にその人の機嫌で叱られてばかりいた,殴られていたなど,嫌な思いをしてトラウマになっている場合も多いのです.これでは,五感に訴えることもなければ的確な回答をもつ回路は脳の中では発育していきません.しかし,ディベートを繰り返させることで最初は喧嘩になるのですが,先生の元で相手の気持ちを理解させながら話し合わせることで,一般と同じような感情のコントロールが可能になると言われています.
コンピューターゲームなどをいつもしていると,ある分野だけは発達するのですが,慣れてくると単調なこと,多の情報が入ってこないこと,失敗しても再起動できること,会話がないことなどで,脳の神経細胞は連合していかないばかりか,必要な止めることをしませんので,抑制が働かなくなります.疲れるまでやらなければ気がすまない,また,ヒトから指摘されるとキレる脳が作り上げられていきます.
前にも述べましたが,単調に話すより,考えながら話す時は脳のいろいろなところが働いていますので,それだけ脳細胞が連合しやすいのです.次第に会話がうまくなるのはその為です.ここに,善い悪い,協調性,相手を思う気持ち,理解する気持ちなど五感からの情報が組み合わされば,別にキレなくてもいいことに気付きます.脳神経の連合,言い換えると統合性は70歳くらいまで発達しますので,今からでも十分に間に合います.脳の興奮と抑制をうまくコントロールしてあげてください.それも,笑いながら行動の善し悪しを教えていくことが必要だと考えます.


4. こども期のイジメ,イジメラレはなぜおこる

1) 心の病気の原因

人が我慢する時,前頭葉背外側部という場所からGABA(ギャバ)という化学物質が分泌され,動きや考えを止めることができるのですが,キレやすい人はここの動きが悪いんです.突然暴れだしたり,過剰におびえたりする人は怒り,おびえをもたらすノルアドレナリンの分泌が高く,幸せ,癒しのセロトニンの分泌が低いことがいろいろな実験で証明されています.セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンを調整する役割を持っていますから,この分泌が少ないとキレたりするのです.
原因としては、遺伝子,育ち方,環境ホルモンの3つが考えられます.

1) 遺伝子
人の脳は遺伝子よって約60%も左右され,人によって持っている遺伝子は違います.遺伝子が原因として,内向的,はまりやすい,優柔不断,やたらと元気といった特性がありますが,これはいってみれば『脳の癖』です.このいくつかの遺伝子群が環境や周囲の人,さらには自分自身との関係に刺激されながら互いに作用し合ってはまりやすい脳やキレやすい脳を作り上げていくのです.

2) 育ち方(環境)
脳は刺激に対して非常に敏感ですから環境によってある癖が強まったり,癖の性質そのものが変化したりということはあります.子供の頃に十分な愛情をもらえずに育つと,幸せ,癒しの脳内物質であるセロトニンの分泌機能が発達しないといわれています。特に乳児は母親と一緒に過ごし,愛情を注いでもらうことによってセロトニン系を育んでいきます.しかし,日本は高度成長期以降,核家族化や地域社会の崩壊が進み,時間をかけて子育てをすることが困難になっています.結果,セロトニン分泌機能が充分でない子供が増えたのではないかと考えられます.
さらに,昔は子供が「遊ぶ」といえば,仲間と外を走り回っていたものですが,最近は少子化やテレビゲームの凄まじい普及によって,内遊び,1人遊びの傾向は加速される一方です.体を動かすことは集中のノルアドレナリンややる気のドーパミンの分泌を増し,脳の発達には非常に重要なことなんです.また,大勢で遊ぶことはコミュニケーション能力や人間関係から生じるストレスの対処法などを学ぶことにもなり,セロトニン系を育てます.

3) 環境ホルモン
環境ホルモンとは人間が本来持つホルモンによく似た化学物質のことで,これが体内に入ると脳や生殖器に深刻な影響をもたらします.知能指数の低下,注意力・集中力の低下,衝動性・暴力性の高まりなどで,特に胎児にとってはごく少量でもかなりの影響力があります.
注意力が散漫で,やたらと動き回ったりする症状をADHA(注意欠陥・多動性症候群)といいます.このADHAの原因の一つに環境ホルモンがあると指摘している学者もいます.実際にアメリカの子供の約5%がこのADHAで今も数は増えているという調査結果が出ており,日本でもキレる子供や学級崩壊にはこれが影響しているのではないかといわれています.
子供は落ち着きがないのが当り前ですが,よく動き回っている時はやる気のドーパミンが過剰に出ている状態でもあるので,うまく作用すればいいのですが,バランスの悪い出方が続くと反社会的人格障害に発展する可能性もあります.そして,脳は絶えず変化していくので,何かが足りないと分れば,それを補おうとさらに変容します.新たな刺激や発想さえあれば脳はいくらでも変ることができます.新たな知識が生れ,これまでにない思考や行動を導くことができます.遺伝子に左右されるのではなく,常に新たな知識の構築で脳は大きく変わる可能性は大きいと思います.
また,うつ病はセロトニン不足から発症すると報告されています.セロトニン量の不足でシナプスからセロトニン放出が少ない,セロトニンを受け止めるはずの樹状細胞が放出されただけのセロトニンを受け止められない(量がかなり減る),そして,樹状細胞からシナブスへセロトニンを戻す時,シナプスが必要量受け戻せない.などが報告されてます.

2) こども期から思春期に特有な心の病気

思春期に特有の心の病気としてイジメ,イジメラレを取り上げて説明しますと,いじめやすい傾向のある疾患として体力の差もあるのですが,強迫神経症,行為傷害,反抗挑戦障害,統合失調症,注意欠陥,多動症などがあり,いじめられやすい傾向のある疾患として対人恐怖症,視線恐怖症,うつ病,神経性食思不振症,統合失調症,注意欠陥,多動症が挙げられます.

 

左から【図8】人間らしさとは 【図9】思春期に特有な心の病とイジメ,イジメラレ

これらは思春期に多い脳の脳内物質の異常とニューロン網の形成を阻害する要因でもあります.
行為障害 はいじめ,脅迫,武器を使う,残酷な仕打ち,盗み,放火,性的暴行,故意に壊す,親に内緒で外泊,よく学校をサボる,よく嘘をつく.
反抗挑戦障害はかんしゃく,怒りっぽい,大人と口論,他人をイライラさせる.規則に従わない,他人を責める,よく恨む,よく悪口を言う.
注意欠陥は誤りが多い,すぐあきる,聞かない,やりどげれない,まとめることができない,避ける,ためらう,なくす,気が散る.
多動障害 はそわそわ,ジッできない,人のジャマをする,静かにできない, 授業中に椅子から離れてウロウロする,過剰に話す,順番を待てない,言葉がはっきりしないなどです.
強迫神経症は約3分の1の人がうつ病を伴い,真面目で几帳面,細かいことにこだわるという性格の人に比較的多くみられ,男性は学業不振や進学や過労など,女性は異性関係,結婚,妊娠,出産,育児の悩みなどで強迫観念に襲われる気持ちが強くなって日常生活にまで支障をきたす状態です.ガス栓の閉め忘れ,鍵のかけ忘れ,汚いものにさわるのではないか,細菌感染するのではないかなどという強迫観念から公衆の物にさわることができなくなります.手の皮膚がすり減るほど手洗いを繰り返すなど,何度も何度も同じ行動を繰り返してしまいます.
うつ病は脳内物質の一種のセロトニンやノルアドレナリンが減少し,憂うつ,悲しい,何の希望もない,落ち込んでいるというような感情で,午前中にひどく,午後から夕方にかけて改善してくるという日内変動がある.今まで好きだったことにも打ち込めなくなる,新聞を読む、テレビなどを見る気がしなくなる,勉強への意欲が低下し,何をするにもおっくうになります.
神経性食欲不振症は発症に先だって挫折体験や社会適応上の困難に直面し,どう対応したらいいかわからないという中でやせることによってそれらから回避できるという,現実回避的な意味が強いようです.低い自己評価を代償するためにやせることを求め,ダイエットをし,持続・エスカレートしたり,過食が始まっても嘔吐等の排出行為を徹底して行なう.そのやせ方はあまりに極端で不自然なので,決して美しくなったわけではありません
統合失調症は脳内の物質バランスの崩れやすさや脳の機能のごく微妙なズレのようなものが素因で,結果として物事を受け入れ,行動する際の微妙な困難さが慢性的なストレスとして,追い詰められていくことで脳内の物質バランスの崩れが決定的になることが引き金であると考えられ,自分の考えが声になって聴こえたり,周囲につつ抜けになっているように感じる.何者かによって思考が抜き取られてしまう,身体に何かイタズラをされている,身体や思考があやつられているような感じ,複数の声が互いに会話している,自分の行為にいちいち口出ししてくる幻聴,見るもの聞くものが妄想のテーマに一致して曲解・誤認されるなどのひとつでもあればこの病を疑います.

しかし,これらの行動の一部はこども期のある次期には症状が重い軽いはあるものの,ほとんどの人が経験しているのではないでしょうか.子供はこれらを少しずつ学習して善いのか悪いのか,結果がどうなるのかを身近な情報源である親,保護者,友人,学校の先生あるいは童話,漫画,本,テレビやインターネットなどから学んで自分なりに判断して,協調性や社会性を形成していかなければならない時期でもあります.

3) イジメ,イジメラレの原点はなんだろう

こども期は脳のニューロンの成長,言い換えますと心の健康を育成しなければなりません.さらに,人間の特有の性格である知性,感情,意志を育成し,人間らしさを教えていくのが務めです.
こども期にはこども自信が努力することが重要です.思いやりの気持ちは親が優しければ自然とできてきますが,親が叱っているばかりであれば,愛情が足らなければ,愛情が過剰であれば,道理を教えられなければ,こどもの遺伝子が凶暴であったら,こどもの脳にキズがあったらどうでしょうか.

通常,男の子同士は喧嘩をしますが,勝ち負けが決まればそれでいいのですが・・.
しかし,例が的確であるかどうかは解りませんが,こどもが行為傷害や犯行挑戦傷害の遺伝子をもっていて自己調整が利かなかったとして,親の言うことを聞かないから(親もそのような遺伝子をもっていて),親が感情で叱ったり,殴ったりするとこどもは情動が理解できずに,最も身近なクラスメイトに同じことをするでしょう.薬物中毒のこどもの妄想からだったら.そのような被害にあったこどもがこども期に多い特有の心の病をもっている子だったら,また,体力のない子だったら,些細なことにも気持ちが沈んでしまう子だったら,イジメとイジメラレが発生します. イジメっ子に思いやりや優しさがあれば,また,イジメラレた子に強力な味方がいればそれで終わるのですが・・.
しかし,異常な性格の子は追いつめます.不幸にしてイジメ・イジメラレが成立した場合に周りはどうでしょう.今まで友達だったこどもは最初は自分もイジメラレたくないから哀れみをもつ傍観者から,シャクターの情動二要因理論的にイジメル側に回る.同じ人間なのに,友達だったのに「私はあいつより偉い」「あいつは人間以下だ」などと妄想的な優位性をもち,イジメルことが快感となる場合もあるでしょう.
イジメラレ側はこども期に多い特有の心の病であったら,登校拒否へ,また,几帳面なこどもであったら,親がこどもの状況を把握せず無理矢理学校へ行かせたら,常に言葉の暴力と殴られる為に人格が破壊され,自分はダメだ,独りボッチだ,自分は人間以下だ,誰も助けてくれない,親に言えば殺されると思い込みます.そして,学校に行く恐怖の毎日が続き,脳内のセロトニン量が急激に低下し,自殺へと追い込まれる・・,マスコミでこのような記事を読む度にこのような最悪な構図があったのではないかと心を痛めます.心の病が引き起こした最悪の事態です.


5. こども期の心の病気を回避するには

乳幼児期には家庭,特に面倒をみてくれる母親や保護者から思いやりや優しさを学びます.逆に感情で叱る,殴るなどをすると思いやりや優しさが欠如します.こども期は学校という集団生活,家庭生活,サークル,塾などで勉強するとともに,体験を基に個人としての人間形成に対して努力していきます.この成長のなかで成功や失敗に対して反省して,なぜそうなったのかを分析することが必要です.反省と分析という行為は社会においても必要な自己研鑽です.
更に物事の理解や結果の理解,成功や失敗から生まれた体験的情報や親,友人,先生などから得られた未知の情報を収集し,体験と照らし合わせて分析することが重要ではないでしょうか.その情報を基に試行しながらしながら体験を重ね将来の希望や展望を構想していきます.

そのこどもを取り巻く人たちは実行や試行時の失敗を責めるのではなく,何が足らなかったのか,あるいは悪かったのかを分析させることが重要です.脳のはたらきでいえば,苦痛を強いる反復は脳の働きを低下させ、記憶の効率も悪くなるという悪循環をひき起こしてしまいますので,ドーパミンやセロトニンの量が減少し,脳が覚えて潜在的に再び同じようなことは回避するようになります.そして,更に新しい情報を与えてやること,自分で探させる(学習させる)ことで,脳はすでに長期記憶になっている記憶に関連した新情報は長期記憶になりやすいこと,脳内に伝達される情報が感情的に興味あるものであれば,脳の神経組織はさらに活発に活動することを利用するような方向で面白く具体例を示しながら話すことが,こども期の脳のはたらきを促進する方法であると思います.
言い換えますと今日は何があった,そのときどうした,どう考えたなどと会話することが必要です.そして,親も正確な情報整理したことを教えなければなりません.そして,こどもに自ら希望をもたせ,それが物事の整理ができて展望へ代わっていくことを望みます.こども期にはその子供を取り巻く環境が決め手になることが多く,親,保護者,友人,学校の先生,医師や私たち歯科医師もその担い手になると考えます.

【図8】脳は何かが足りない,絶えず常に新たな刺激,発想や知識を得ると分ればそれを補おうと変化する.
人は努力を根底にもつことで,脳は新たな知識が生れ,これまでにない思考や行動を導くことができます.幼児期の遺伝子優先から,こども期を通じた環境により,常に新たな知識の構築で脳は大きく変わる可能性があります.
こども期のどんなに些細なことでも,変わろうとする努力を根底に,人との付き合いには思いやりと,優しさ.自分のおこなった行動を反省する時間をつくることで自己分析ができる.そらに,何故そうなったのかを考えることで理解とひとつの経験的な情報が得られる.さらに,同じようなことがなかったのか,どうしたら良かったのかを友達,親,先生に尋ねてさらに情報を収集する.そして,施行をおこなう.それが失敗したらあきらめずに反省,分析,理解,情報収集をおこない,再び施行する.そして,成功したら再び,反省,分析,理解,情報収集をおこない希望から展望へと変化していく.これを親や保護者は見守りながらこどもの脳の発達の手助けをしていく.それを繰り返すことで,ひとりで考え,実行できるようにするのが親の務めだと思います.また,偏食もよくありません.

既に心の病にかかった場合はどうするかですが,

うつ病は気分が滅入りこみ,意欲が減退し,やたらに不安になる精神疾患で,傍にクヨクヨ、メソメソした人を励ますことと大きく異なります.うつ病の人に頑張れ,しっかりしろなどは禁物で,もともと,さぼってやろうとか,怠けてやろうなんて気持ちはさらさら無く.むしろ頑張りに頑張り,耐えに耐え,力も尽き果てた末にうつ病になるのです.そんな人に頑張れということは,かえって負担になり,容易に自殺に追いやることにもなりかねません.周りの人がなすべきことは.うつ病の人の愚痴を何度でも聞いてあげて,何でもないことを心配し,不安におびえたりする気持ちを和らげることが必要です.
統合失調症はストレスに大変弱い面があり,当事者とその家族の関係をどうするのかを悩ませる事があります.少し大声で話しただけで,俗に言うキレたり,凶暴になることもあります.また,一日一日,精神状態が鬱の時と躁の時を繰り返すこともあります.当時者の表情一つ一つで一喜一憂しても仕方なく,自分で問題を抱え込んでしまう傾向があるようです.悩みがあればそれを自ら言うまで待つということも必要で,何もかも過保護に当事者の言うとおりに買い与えたりするのも良くないでしょう.毎日のストレスの積み重ねで悪化することを頭に入れて,会話をしたり配慮も必要です.子供の頃から過干渉で育てられた人はある日突然,病気になることもあるらしく,ある程度は家族も子供には自由に育てて,子供同士を比較したりするのは良くないですね.ストレスはなるべく与えないようにすることで,根本的な面も治療しないと良くなりません.

治療薬は日々,開発と研究により格段に進歩ししていますので,周りの人たちが早く見つけてやることが大事なことです.

 6.  脳の病気の治療法

1)  うつ病の治療

うつ病(鬱病、欝病)とは気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患/脳の病気であり,日本で100万人を越えます.このうち毎年,3万人強が自殺されています.

(1) うつ病の診断
大うつ病についての「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」の2つの主要症状が基本とするDSM-IVの診断基準が用いられていますが,DSM診断法ではうつ病と躁鬱病は4割程の誤診があるので,光トポグラフィ検査により血流量の変化のパターンにより診断することが,より確実性を増します.近赤外光脳計測装置とは、近赤外光を用いて頭皮上から非侵襲的に脳機能マッピングする「光機能画像法」の原理を応用した装置のことです。(詳細は「NIRS脳計測装置」の項を参照のこと)

近赤外光脳計測装置や NIRS脳計測装置により脳の血流量(酸素化ヘモグロビン)の測定
近赤外光脳計測装置の原理と位値決め

(2) うつ病の治療法
鬱病はセロトニン不足や脳の扁桃体の興奮による.扁桃体の役割である不安・恐怖・悲しみを感じることを暴走することで、うつ病となります。前頭前野背外側部 / DLPFC (dorsolateral prefrontal cortex)を活性化することで、扁桃体の興奮を抑制させるが、DLPFCやDLPFCと扁桃体のシナプス回路になんらかの障害により、遮断されます。
DLPFCの血流を増させ,扁桃体の役割である不安・恐怖・悲しみを感じることの暴走をDLPFCは抑制する.DLPFCは1.判断や意欲 2.扁桃体の暴走を押さえることで,7割の回復率で月に1度の治療が必要.セロトニンの服用と併用してはどうでしょうか.

DLPFC

a  磁気刺激法 / magnetic stimulation
磁気刺激により脳のDLPFC (dorsolateral prefrontal cortex; 前頭前野背外側部)を活性化して血流を増させ,扁桃体 の役割である不安・恐怖・悲しみを感じることの暴走をDLPFCは抑制する.
DLPFCは1.判断や意欲 2.扁桃体の暴走を押さえることで,7割の回復率で月に1度の治療が必要.
DLPFCで脳25野の磁気刺激

    

磁気刺激とは

TMS / 経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation)は、おもに8の字型の電磁石によって生み出される、急激な磁場の変化によって (ファラデーの電磁誘導の法則により) 弱い電流を組織内に誘起させることで、脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法である。この方法により、最小限の不快感で脳活動を引き起こすことで、脳の回路接続の機能が調べられる。

 

rTMS / 反復経頭蓋磁気刺激法は (Repetitive transcranial magnetic stimulation) とも略され、脳に長期的な変化を与える。多くの小規模な先行研究により、この方法が多くの神経症状 (例えば、頭痛、脳梗塞、パーキンソン症候群、ジストニア、耳鳴り) や精神医学的な症状 (例えば うつ病、幻聴) に有効な治療法であることが示されている。

2) その他の脳の病気(下記病名)にも知見は始まっています

経頭蓋磁気刺激法による下記徴候処置の可能性
Alcohol dependence ; アルコール依存症
Alzheimer’s disease ; アルツハイマー疾患
Attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) ; 注意欠如多動性障害
Autism ; 自閉症
Bipolar mania ; 両極性のマニア
Bulimia nervosa (BN) ; 神経性過食症
Depression ; 鬱病
Fibromyalgia ; 線維筋痛症
Obsessive compulsive disorder (OCD) ; 強迫症
Pain; 疼痛
Parkinson’s disease ; パーキンソン氏病
Posttraumatic stress disorder (PTSD) ; 外傷後ストレス症
Schizophrenia ;  精神分裂症
Spasticity ;  痙縮
Stroke rehabilitation ;  脳卒中リハビリテーション
Migraine ; 片頭痛
Tinnitus ; 耳鳴

3) DBS 脳深部刺激
脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation、DBS)は、何らかの病変により、脳の一部が機能不全を起こしている患者の脳に適切な電気的または磁気的刺激を継続的に送りこむことによって、症状の改善を図る治療法である。パーキンソン病・ジストニア等の不随意運動やてんかん、重度の鬱病、強迫性障害、遷延性意識障害といった、脳の病変に起因するさまざまな疾患について、薬物療法での改善が見られなかった例を対象にアメリカなどで治験が続けられている。日本ではパーキンソン病や振戦の治療に関して2000年より保険適応が認められている。
うつ病では脳25野に直接電極を差し込むことで,そこで行われている神経細胞の情報処理特性と関係していると考えられている細胞構築とシナプス回路の回復により,DLPFCと扁桃体の両方に作用して正常な状態に戻すことで,不安等を押さえます.

外側表面 内側表面

4) カウンセリング / 認知行動療法
ことばの力でDLPFC(背外側前頭野)と扁桃体のシナプス回路を再形成する方法で楽しかったことを思い出して,扁桃体をコントロールする

              ※ これらの図全てはサイエンスから引用したものです


7. こども期の食事

感情のコントロールや記憶力の維持には,神経細胞の伝達がスムーズに行われる必要があります.脳内物質は寝ている時に作られ,摂取した栄養素によっても異なります.

1) 亜鉛は神経細胞間の刺激伝達物質を合成する成分で,脳の機能を高めて精神を安定させるために必要なミネラルの一つです.亜鉛不足が続くとイライラしたり落ち込みやすくなったり,記憶力の低下,うつを招く原因で子どもたちが突然「キレる」原因のひとつにも亜鉛不足があげられています.また,亜鉛には免疫細胞のはたらきを活性化させる作用,女性ホルモンが正しく機能する特に妊娠中の人は亜鉛が不足しないように,男性ホルモンの合成を助けて精子を作くり,精子の運動を活発にしてくれる作用,舌には味蕾という器官が関与して細胞の新陳代謝を繰り返すことで味覚を正常に保が不足すると味覚障害となる.体重70Kgの男性体内の総亜鉛量は1.4~2.3g,1日当たり6~7mgが所容量,急性中毒は400~500mgZn/kg体重.悪心,嘔吐,下痢などの症状.

2) 重金属などが少ないサンマ,ウナギ,イワシなどの青魚をよく食べる人は血栓症や心臓病による突然死が少ないだけでなく,うつ病や自殺率が低いことが分かっている.青魚の油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は“n-3系”と呼ばれるタイプの脂肪酸で,EPAは血小板の凝固を防ぎ,血液をサラサラにする効果が高いために医薬品としても認められている.DHAはイライラの解消といった“心”への効果が高いとされており,精神の安定にかかわる神経細胞を活性化させてストレスを緩和する.特に,うつ病やヒステリー,マタニティーブルー,緊張型の血行不良や頭痛などを和らげる作用があることが知られています.
魚をよく食べる女性の子はIQが高い,少なくとも週に1回,魚類を食べる人は食べない人に比べて,アルツハイマー病の発症リスクが60%減少する(DHA効果)とされ,1日に取りたいDHAとEPAの量は1.7gで,魚によりDHAとEPAの含有量は大きく異なるが,これはサンマなら1尾,本マグロ(トロ)の刺身なら2~3切れに相当する.ビタミンCやビタミンEなど抗酸化作用のある食品と一緒に取ると,DHAやEPAの効果をより高めることができる.例えば焼き魚ならば、レモン汁をかけたり、大根おろしをたっぷり添えるといい.

3) カルシウムは骨に影響を与えている.筋肉の収縮作用にカルシウムは必要不可欠で,人間の精神面でも大きな役割を果たしています.カルシウムは神経の働きを正常に維持してストレスに対する抵抗力を高めます.
カルシウム不足をほっておくと骨粗しょう症,肩こり,腰痛,歯周病.
1日のカルシウムの量は成人男性が700mgで成人女性が600~1000mgだと言われていますが,カルシウムを効率的に体内に摂り入れたいなら,ビタミンD,マグネシウムは腸でカルシウムの吸収を手助けます.

・漢方ではイライラの原因は次の2つに分類されます.

1) 肝鬱気滞証 (カンウツキタイショウ) 特徴は胸、脇の張ったような痛み,胸苦しさ,食欲不振,目の痛み,疲れ目,不眠等です.  こんな方には、肝の鬱滞をスムーズにして気の流れをよくする食べ物,そば,ほうれん草,大根,にら,みかん,ジャスミン茶等が良いようです.
2) 肝脾不調証 (カンビフチョウショウ) 特徴はストレスで弱った肝のエネルギーが脾にも及び消化器の機能低下を引き起こしたもので,一つ目の症状に加えて下痢などでお腹がゴロゴロし、よくため息をくつ等の症状が表れます.  こんな方には,はと麦,あわ,ライチ,山菜(山の芋)なつめや,今が旬の太刀魚もおすすめですよ.

・イライラのツボ

頭頂の百会(ヒャクエ)
胸部第四肋間正中の亶中(ダンチュウ)
背部第三胸椎突起下の身柱(シンチュウ)
足の母指の付け根にある太衝(タイショウ)

※数秒から数十秒押して,ゆるめるのを数回繰り返す.

・精神安定にはたらくミネラルや食品成分と食べ物

精神安定として働く食品成分はカリウム ,カルシウム,ギャバ ,クエン酸 ,トリプトファン,ドコサヘキサエン酸(DHA),ナイアシン,ビタミンB1 ,ビタミンB12,ビタミンB6 ,カロチン ,マグネシウム ,メチオニンなどが有効です.これらの成分は下記の食品に多くあります.

カリウム グァバ茶,桃,キウイ,れんこん,にら,しそ,栗,山芋,ひじき,ぶどう,柿,ほうれんそう,たらの芽,かぼちゃ,大豆,じゃがいも,昆布,バナナ,杏,たけのこ,枝豆,そらまめ,里芋,レモン,スイカ,アメリカンチェリー,にんにく,春菊,アシタバ,小豆,さつまいも,キヌア(キノア),ココア.
カルシウム キヌア(キノア),豆腐,オクラ,ふきのとう,ひじき,ししゃも,牡蠣,ヨーグルト,ごま,空芯菜,ほうれんそう,しらす干し,ピータン,味噌,アシタバ,青梗菜,モロヘイヤ,いわし,めざし,牛乳,枝豆,葉ねぎ,昆布,うなぎ,あさり,チーズ,黒米.
ギャバ 発芽玄米,醤油,玄米,味噌.
クエン酸 ローズヒップ,みかん,杏,レモン,キウイ,梅干,酢,すもも
トリプトファン 小麦胚芽,しらす干し,大豆,タラコ,ごま,かつお,チーズ.
ドコサヘキサエン酸(DHA) あじ,数の子,さんま,にしん,ます,あん肝,鮭,ししゃも,ハモ,めざし,いわし,鮭の筋子,タイ,ぶり,ほたるイカ,うなぎ,鯖,タラコ,マグロ.
ナイアシン とびうお,鮭,まつたけ,なめこ,とうもろこし,大豆,豚レバー,タラコ,かつお,まいたけ,シメジ,たらの芽,そらまめ,ぶり,タイ,いわし,干し椎茸,エリンギ,グリンピース,小豆,牛レバー,ふぐ,鯖,のり,ヒラタケ,エノキダケ,ピーナッツ,そば,黒米.
ビタミンB1 ラム肉,すっぽん,鮭の筋子,のり,グリンピース,ごま,小豆,豚レバー,牛レバー,うなぎ,干し椎茸,枝豆,栗,小麦胚芽,緑茶,豚肉,ぶり,いくら,ヒラタケ,まつの実,大豆,小麦,卵黄,鶏レバー,タラコ,ひじき,エノキダケ,ヒマワリの種,そらまめ,玄米,黒米.
ビタミンB12 のり,いわし,鯖,にしん,わかさぎ,しじみ,牛レバー,チーズ,あゆ,かつお,さんま,マグロ,赤貝,はまぐり,鶏レバー,あん肝,鮭,ししゃも,ます,ホタテ,豚レバー,いくら,鮭の筋子,どじょう,めざし,牡蠣,ほたるイカ,卵黄.
ビタミンB6 小麦胚芽,くるみ,パセリ,アボガド,とびうお,牛レバー,豚レバー,小豆,ごま,メキャベツ,バナナ,鮭,卵黄,そらまめ,唐辛子,モロヘイヤ,のり,鯖,マグロ,鶏レバー,大豆,にんにく,リーキ,いわし,さんま.
カロチン あさつき,アシタバ,オクラ,かいわれ大根,かぶの葉,かぼちゃ,クレソン,ケール,こまつ菜,しそ春菊,大根の葉,青梗菜,つるむらさき,菜の花,にら,にんじん,パセリ,葉ねぎ,ブロッコリー,ブロッコリースプラウト,ほうれんそう,ミツバ,モロヘイヤ,杏,スイカ,びわ,ひじき,うに,緑茶.
マグネシウム キヌア(キノア),アーモンド,カシューナッツ,ピーナッツ,ほうれんそう,ひじき,納豆,黒米.
メチオニン 枝豆,しらす干し,のり,マグロ,かつお,鮭の筋子,卵.

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