2 歯周病

【 歯の喪失の三大原因 : むし歯,歯周病,歯の破折 】

2. 歯周病(歯槽膿漏)

歯周病(歯槽膿漏 / 辺緑性歯周炎)は「静かなる病気」と呼ばれるほど自覚症状がほとんど感じられない病気で,気づいたときには歯を支えている骨(歯槽骨)が溶かされてボロボロになり,重症になっているケースも少なくありません.

歯周病(歯槽膿漏)は大きく分けて,歯肉炎と歯周炎にわけられます.

日本人の場合,歯肉炎は10~20代前半ですでに50%,50才代でおおよそ80%以上の人がかかっているといわれている怖い病気です.歯周病の予防や進行を止めるには,早期発見,早期治療が大事です.
歯周病が恐ろしいのは,かなり進行するまで目立った症状や痛みを伴わないことです.自分では歯ブラシを十分して,大丈夫だと思っていても,腫れる,痛い等の自覚症状がないために気がつかないまま,個人の抵抗力にもよりますが,知らず知らずに20年30年と長い間に徐々に悪化しながら,本人の自覚がないままに歯周組織が壊されていきます.

ある程度悪化してから,体調が悪い時にうずいたり歯茎からの出血で気になる程度です.それから噛めない,腫れる,歯が動く,隙間ができた,歯並びが変わったなどご自分で歯周病だと気がついた時にはかなり悪化している場合が少なくありません.
程度の差はありますが,全世界の人口のおよそ7割の人々が歯周病に罹患しているといわれています.

歯科定期検診は少なくとも半年に一度は必要です.

1) 歯肉炎と歯周病のちがいは

歯肉炎は歯ぐきが赤っぽくなり,腫れはじめ,少しかゆいような,浮いたような,痛いような感覚があり、歯磨きなどの際に少し出血を伴い,口臭がします.歯肉に炎症がある状態です.

歯周炎は歯肉炎の症状より深刻で,冷水や甘いものがしみたり,歯根が見えてきたり,歯に動揺がでてきたり,歯並びが変わってきたり,食べ物を噛むと痛みがでてきます.これらは歯槽骨が破壊(歯を支える顎の骨が吸収された)されている状態です.

歯ぐきが腫れたときは急性歯槽膿瘍といいまして,細菌,抵抗力の低下などによって炎症がおこり,一度に歯周組織の破壊が起きている時です.

2) 歯周病ってなに

歯周病とは歯を支える組織 ( セメント質,歯根膜と顎の骨) が,壊されている病状を言います.

もう少し詳しく説明しますと,歯周病 ( 歯周疾患)の原因は約70%もの細菌,血球,剥離上皮細胞,残渣物で構成される歯垢や歯石が歯周ポケットに存在し,過咬合によって起こる歯の動揺は歯肉溝の拡大と細菌の篏入により歯周ポケットを形成する.また,硬固物咀嚼をくり返すことによる歯根のヒビやハウシップ窩の形成は歯周ポケットに潜む細菌の細胞膜であるLPSや細菌によって産生されるコラゲナーゼ,ヒアルノニダーゼ,コンドロイチナーゼなどの組織溶解物質による組織浸襲が原因で,歯の根の周りから歯を支えている歯肉・歯槽骨・歯根膜・セメント質で構成される歯周組織に波及し,やがては免疫応答が破綻して組織抵抗力を失い,歯周組織がどんどん壊されていく症状をいいます.

言い換えますと,咬むことによって歯を支えている組織が細菌等の産生物や自己蛋白異常により壊されて,その歯の周りの骨がどんどん壊されていきます.
そうすると,歯が動いてきます.動いてきた時は歯を支える歯槽骨は1/3以上が破壊されていますから,相当に壊されたと考えられます.また,急性で歯ぐきが腫れたときに気付く場合も多いようです.

歯周病の原因は

健康な歯と歯肉はしっかりとつながっていて,その部にもともと歯肉溝と呼ばれる隙間があります.これがさらに深まり,歯周ポケットという状態になります.この歯周ポケットの中でバイ菌の巣であるプラーク(歯垢)や歯石中の細菌が繁殖して毒素をだすので,歯を支える組織 ( 歯肉,セメント質,歯根膜と顎の骨) が壊され,歯周病は悪化していきます. ブラッシング効率 (歯や歯ぐきを磨いているけど磨き残しが多い)が悪ければ,厳密にはわずか3日で歯肉炎に1週間もあれば立派な歯周病になりますので,定期検診が必要です.

老化に伴って歯周病が急速に起こる原因

老化によってある次期から,歯肉や歯根膜を攻撃する インターロイキン(IL)1β,IL6,IL8やプロスタグランディング(PG)E2,歯槽骨を溶かす自己免疫疾患もあらわれる場合があります.病原菌への感受性が鈍り,炎症が治らず,歯が少なくなるために更に悪化させる悪循環がおこります.

歯牙喪失に伴う咬合指示域の減少による残存歯への負担過重 免疫応答性の低下と歯周組織の老化
歯 肉 歯周病原菌の感染対する応答変化は個体差による 歯周病原菌の感染対する応答変化は著しい
歯根膜 咬合圧に対する影響は大きい 咬合圧に対する影響は大きい
歯槽骨 骨芽細胞の細胞基質成分の変化による骨形成能への影響は大きい 骨芽細胞の細胞基質成分の変化による骨形成能への影響は大きい

とにかく,歯周病は早めに的確な処置をしてください.歯周病が進んでいれば,できるだけ HTR法(歯周組織工学再生法)をおこなうことをお薦めします.

歯周病の要因は

過咬合 噛み締め,片側咬み,硬固物をよく食べることで歯根にヒビなどの損傷を与える.
歯周ポケットの拡炎による細菌侵入 ブラッシング効率が悪い,過咬合
異常習癖 つまようじ(ツースピック類),不良なブラッシング,歯間ブラシの間違った使い方などにより,歯肉の傷から炎症が広がる
舌運動の異常 嚥下異常,舌の自浄性不良により,特定部に食物の貯留
自己蛋白異常や自己免疫疾患 ある時期から炎症を起こすサイトカインなどの補体系を自己放出する
生活習慣病 糖尿病,高血圧,腎臓障害,肝疾患,心臓疾患,脳疾患など

歯周病の要因の中で日本人に最も多く,歯周病の外科処置をしても
進行を止められないことが多い,つまようじの使用は止めましょう!!

また,不良なブラッシング,歯間ブラシの間違った使い方などにより,
歯肉の傷から炎症が広がったり,出血が人工歯石になって歯周病を悪化していきます.

つまようじや歯間ブラシの間違った使い方は危険です つまようじや歯間ブラシの間違った使いかたをする人に歯周外科をおこなっても, 歯周病の広がりは止められません
42歳の女性
母親と一緒に来院 母親の家庭はつまようじを使う習慣はなかったが,結婚した家庭がつまようじを使うので習慣となってしまったとのこと. わずか18年で1/2~2/3の歯槽骨がとけてしまいました.
つまようじを使う習慣は最悪な結果をもたらします.
30歳の女性
家庭でつまようじを使う習慣があり,小さい頃から使用していた.永久歯列が完成してわずか 15年で1/2~2/3の歯槽骨がとけてしまいました.
つまようじを使う習慣は最悪な結果をもたらします.
初診62歳-現在76歳の女性
高齢化に伴って,食片が歯と歯の間につまり,つまようじを使う習慣ようになって1年で2/3以上の歯槽骨がとけてしまいました.
つまようじを使う習慣は最悪な結果をもたらします.
 

【写真左】根治療はいい加減でも,歯周病の進行は少なかった.特に右上第一,第二大臼歯
【写真右】14年後,特に右上第一,第二大臼歯はつまようじにより,根尖まで歯周病の進行している.つまようじを使わない部分は歯周病は進行していない.


  

【写真左】根の治療が必要,歯周病の進行は少なかった.特に左下第二小臼歯と第一大臼歯
【写真中】13年後,根尖病変は消失し,良好に経過している.
【写真右】14年後,特に左下第二小臼歯と第一大臼歯の間につまようじを使い始めて1年,歯周病の進行が著しい.つまようじを使わない部分は歯周病は進行していない.

歯周病の危険因子は

最も,歯周病を急激に併発する事項として歯根の微小なヒビがあります.
ここれには一般に外傷性咬合とよばれ,
過度な咬合力で歯根の表面にヒビが入ったり,セメント質が微小に破壊される(ハウシップ窩の形成)
などにより歯根膜が貧血や感染により再生能力が乏しくなって,歯周病が急激に進行します.

例えば,本医院に20年くらい通院されている患者さんで若い頃から いりこ を毎日食べている人でも,
60歳を過ぎると歯は割れてきますので,
「歯の硬さには限界があり,咬む力は衰えませんので,咬む力が勝ったり,咬む方向が異なったときに歯根は割れる」
ようです.硬いものは45歳を過ぎたらなるべくひかえましょう!!

本医院の患者さんで実際に歯の破折になった硬固物です

歯根にヒビや破折をおこしやすい硬固物の種類
・豆類 : 油で揚げた豆,ピーナツ,アーモンド
・タネ類 : 梅干しのタネ,ひまわりのタネ,トウモロコシのタネ
・乾燥食品 : 乾燥バナナ,ビーフジャッキー,スルメ等
・氷,アイスキャンディー丸かじり,冷凍カズノコなど,
・アメ,カタパン
・キャラメル,
・ガムをよく噛んでいる
・鳥の軟骨

そのほかに歯根のヒビや破折につながる行為
・カニ等の殻を歯で噛みちぎる
・ビンの栓を歯でこじ開ける
・朝起きたら歯が痛い・・・くいしばり,歯ぎしりを寝ている間におこなう.

タバコは歯周病の危険因子のひとつ

 

【写真左】喫煙者は歯の喪失が早くおとずれる.
【写真右】喫煙者は喪失数が多い.

糖尿病は歯周病の危険因子のひとつ,有病者は歯の喪失が早い

 

【写真左】糖尿病は歯肉炎→歯周病の悪化で,歯の喪失が早くおとずれる.
【写真右】有病者は歯周病による喪失数が多い.高血圧,糖尿病,心臓疾患,腎臓疾患,甲状腺機能障害など,また,カルシウム拮抗剤や血液抗凝固剤,抗てんかん剤の服用も歯周病になりやすい.

骨粗鬆症は危険因子のひとつで,歯の喪失が早い

歯周病の自己診断をしてみましょう

・歯みがきのとき、歯肉から出血はありませんか?
・ 歯肉の色が変わったり、腫れたり膿がでたりしてませんか?
・ 口臭は気になりませんか?
・1本でもグラグラする歯はありませんか?
・歯肉が下がって歯が離れてきてるような感じはありませんか?
・歯並びやかみ合わせには変化はありませんか?
M2 は水平動揺で,いろいろな処置や移植手術をする必要がある.
M3 は歯が水平垂直に動き,歯を支えている組織は全て壊された(歯の死を意味します).


A. 歯周病の進行

歯周病の進行は ( 歯槽骨の吸収状態から P0~P4,動揺度は M0~M3 ) の4段階に分類されます.
1つでもあてはまるときは早目に歯科医院を受診されることをおすすめします.

模式図 分類と病態 歯の動揺度
P0 (プラークコントロール)
健康な歯周組織
歯肉・歯槽骨・歯根膜・セメント質ともに健康
MO
生理的動揺
P1(歯周外科処置)
軽度の歯周病
歯ぐきが赤く,腫れている 歯周ポケットが一部壊されて歯肉縁下歯石が形成され, 歯槽骨は一部破壊
MO
生理的動揺
P2~P3 (再生療法)
中程度の歯周病
歯ぐきが赤く,腫れて,歯石は歯根部に付着 歯周ポケットが壊されて歯槽骨は中程度の破壊, 場合によっては水平動揺
M1~M2
水平動揺
P4 (抜歯 )
重度の歯周病
歯ぐきが赤く,腫れて,歯石は根尖部まで付着 歯周ポケットは極度に壊されて歯槽骨は重度に吸収 され,歯根が見えて,歯は水平・垂直動揺
M3
水平・垂直動揺

さらに歯周病を悪化させること

つまようじの使用, 歯ブラシや歯間ブラシの間違った使い方をする人 つまようじを使ったり,不良なブラッシング,歯間ブラシの間違った使い方などにより, 歯肉の傷から炎症が広がったり,出血が人工歯石になって歯周病を悪化していきます.
硬いものを好んで食べる人 最も,歯周病を急激に併発する事項として歯根の微小なヒビがあります. ここれには一般に外傷性咬合とよばれ,過度な咬合力で歯根の表面にヒビが入ったり,セメント質が微小に破壊される(ハウシップ窩の形成)などにより歯根膜が貧血や感染により再生能力が乏しくなって,歯周病が急激に進行します.
歯並びの悪い方 歯ブラシが十分いきとどかなくなって,プラークがつきやすくなります.また,硬いものを好んで食べるひと同様咬合性外傷を引き起こしやすい歯並びとなります.
ストレス ストレスにより歯軋りなどしたり,身体の抵抗力が低下して炎症をおこしやすくなるといわれています
喫煙をされる方 タバコをすっている方は血流が悪くなるので,歯周病が進みやすく,いったん炎症がおきてしまうと治りづらく,プラークもつきやすくなり,歯肉の色も黒ずんだり,白っぽくなっきます.
食生活 やわらかくてあまいものばかり食べているとプラークができやすくなり,硬固物は歯根の外傷引き起こします.偏食をすると栄養摂取が不十分になり身体の抵抗力が低下します.
女性の思春期,妊娠,更年期 女性ホルモンの影響で歯肉に炎症をおこしやすいといわれています.
口呼吸の方 お口での呼吸をされているかたは,お口の中が乾燥しやすくなり,炎症をおこしやすくなるといわれています.
糖尿病の方 身体の抵抗力が低下するため,歯周病も急速に悪化させるといわれています

B. 歯周病の検査

歯周病 ( 歯周疾患 / 歯槽膿漏 / 辺縁性歯肉炎 ) の検査

・レントゲン ( X線,オルソパントモ ) でどのくらいの顎の骨が残っているかを検査します,
・歯肉の発赤・腫脹の有無,
・歯周ポケット測定は3次元的に歯周ポケットの深さを計測し,歯周ポケットからの出血や排膿の有無,
・プラーク(歯垢)の付着状態,
・歯肉縁上・縁下歯石の有無,
・歯の動揺度は歯の動きを検査します,
・歯冠の離開度(歯と歯が離れて食べ物がつまるかどうか等)}
・生活習慣病や遺伝子疾患との関連
・その他

C. 歯周病の予防は

歯周病は原因因子が特定できず複合因子によって重症化していく場合が多く,単一因子では歯周病の病態を改善させたり,予防することは不可能です.原因が不特定多数なため,世界中の成人の70%以上が罹患している由縁です.
下記の因子と個人の特徴的な事項をまとめて,歯科医院で相談してください.当てはまる原因因子を探し出していきます.しかし,自己免疫疾患や生活習慣病,癌等は対処療法となる場合もあります.歯周病の進行を遅らせる意味でも予防的手法は必要です.

D. 歯周病の治療は

歯周疾患 / 歯周病に罹ったとわかったときからいくら一生懸命に歯を磨いたとしても,個人差はありますが,やがて歯が抜けることは避けられないでしょう.条件によって歯が抜ける落ちるまでの期間は様々です.
その条件は,細菌数と活動性(歯石と歯垢),咬む力,歯周ポケットの歯周病の3要素と歯科定期検診です.
その人に歯周病の3要素は異なります.P0~P4の分類で必要な治療内容を下記に示しました.

  • P0 ブラッシング,歯石除去,定期検診
  • P1 ブラッシング,歯石除去,ルートプレーニング,簡単な外科手術,定期検診
  • P2 ブラッシング,歯石除去,ルートプレーニング,歯周組織の再建手術,固定,定期検診
  • P3 ブラッシング,歯石除去,ルートプレーニング,歯周組織の再建手術,固定,定期検診
  • P4 抜歯

歯周病は一筋縄でいく簡単な病気ではありません.お口のみならず心身を含めて一生の健康を望まれる方は,ぜひ痛くない時に,歯科医院をお尋ねください.予防するためには,まず日々のブラッシングを指導されたように適切に行うこと.歯肉の調子が悪くなった時は早めに歯科医に受診されることをお勧めします.

原因は年齢にはあまり関係ありませんし,病気ですから治せる可能性も高いです.もし,すでに歯周病になっていても手遅れと諦めないでください.再生医療を用いた効果的な治療方法があります.

歯ブラシだけで歯周病は治らないですよ ! つまようじを使っている人は歯周病は治りません.

歯ブラシで効率よく歯や歯ぐきを磨くということは非常に大事なことです.しかし,歯ブラシさえしていれば歯は抜けないという理論にはびっくりします.
例えば「グラグラしたM3の歯でも,歯ブラシの押さえる力から歯が動いて悪影響を与えるから,毎食後,筆でそっと磨いているうちにその歯の動きは止まる」と説かれた先生がいました.15年程前はそれを信じる先生もいたのには驚きました.
組織学的にM3の歯周ポケットは6~8mmありますので,軟組織を除いてもを数ミリしか歯周組織は残っていません.歯が動かないように一生懸命筆で磨いても組織学的には 骨ができることは無く,一時的なものです.歯周病の進行にもよりますが,その歯の抜ける寿命は1~2年位でしょう.硬固物を食べると歯は抜けてしまいます.・・患者さんがそれでいいというのであれば,そのような治療は成り立ちます.
つまようじは最悪の効果を招きます.直ちに止めてください.特にインプラント治療された方はつまようじは使わないでください.インプラントが抜け落ちます.
また,インターデンタルブラシ(歯間ブラシ)は入らない部位に入れないでください.歯間ブラシは半数の歯科大学では勧めていません,歯間部はV7ブラシなどで磨いています.既に歯槽骨が溶かされている人に限ります.

E. 歯周組織再生法(保険のきかない歯周外科手術)

歯周組織再生法には通常の歯周外科処置歯周組織誘導法がおこなわれています.
注) 歯周外科処置は保険適応ですが,歯周組織誘導法は自費の手術となります(日本全国この旨です).

歯周外科処置は感染した軟組織や骨などの悪い部分を切り取る手術で,歯周組織の再生はその人の病態と治癒能力にゆだねられます.高齢者や抵抗力のない人は前歯の歯周外科手術などでは歯周組織の回復が充分でなく,歯が伸びたように歯の根が見えることがあります.でも,歯肉の下では正常に歯周組織は回復しています.歯ぐきが短くなるということです.
主な手術法に新付着手術(ENAP),歯肉切除(G-ect),歯肉剥離掻爬術(F-Op),ウッドマンフラップなどがあります.

歯周組織誘導法は感染した軟組織や骨などの悪い部分を切り取り,破壊された歯周組織を元の正常な状態に回復させようという手術で,歯周組織の再生を目指しています.でも,現在の手法は完全に元のような歯周組織の改善にはまだ時間がかかるようですが,歯槽骨,歯根膜,歯肉の回復はある程度可能です.セメント質以外は正常に歯周組織は回復しています.歯ぐきが短くなる率は歯周外科処置よりも確実に少ないようです.
主な手術法に骨誘導再生法(GBR法),歯周組織再生法(HTR法)があります.


エムドゲインってなに?

エムドゲインはスウェーデンで開発歯周組織再生誘導材です.エムドゲインの主成分(エナメルマトリックスデリバティブ)は歯が生えてくるときに重要な役割をする蛋白質の一種を幼弱ブタやウシから採取しています.歯科外科手術の際に手術部位にエムドゲインを塗布することにより歯の発生過程に似た環境を再現し,歯が生えたときと同じような歯周組織の再生を促すのです.
歯術手順(局所麻酔をして行います)
1. 歯肉の切開 2. 歯肉の(はくり)剥離 3. 歯根部のルートプレーニング 4. エムドゲインの塗布 5. 縫合
手術の目標 : 歯科医師が満足できるが患者さんの満足とは異なる場合がある
問題点 : ブタやウシのアメロゼニン等の蛋白と人のアメロゼニン蛋白では SNPs,開始・終始コドンが異なる点.

この手法はSNPsなど遺伝子の変異の可能性があるために,日宇歯科ではほとんどおこなっていません.
エムドゲインは過去2回,製品回収がありました.2度目は2007年4月中旬を目安に発売されます.
HTR法(歯周組織工学再生法)をご覧ください.


GTR法(組織誘導再生法)

専用のメンブレンという人工膜により,上皮組織の陥入を防ぎ,破壊された歯周組織を自己再生させる方法です.1. 歯肉の切開 2. 歯肉の(はくり)剥離して患部の隅々まで清潔にします 3. 歯根部のルートプレーニングと病原菌に侵された骨の表面も取り除きます 4. 専用の人工膜を縫合 5. 歯肉の縫合
手術の目標 : 歯科医師が満足できるが患者さんの満足とは異なる場合がある
問題点 : 自己組織回復能力に全てゆだねられる.場合によっては骨の新生はないことがあります.非吸収性膜は再度手術をおこなって膜を取り除かなければなりませんので2度の手術が必要です.
この手法はあまり効果がないために,日宇歯科では現在おこなっていません.
HTR法(歯周組織工学再生法)を主におこなっています.


GBR法(骨誘導再生法)

破壊された歯周組織を再生させる方法で,破壊された骨組織を取り除いて洗浄し,自家骨や人工骨を填入して,吸収膜などで上皮の陥入を防ぎ,歯周組織を回復させる方法です.
1. 歯肉の切開 2. 歯肉の(はくり)剥離して患部の隅々まで清潔にします 3. 歯根部のルートプレーニングと病原菌に侵された骨の表面も取り除きます 4. 自家骨や人工骨を転入 5. 専用の人工膜を縫合 6. 歯肉の縫合
手術の目標 : 歯科医師が満足できるが患者さんの満足とは異なる場合がある
問題点 : 自己組織回復能力にゆだねられ,骨の新生量には個人差がある.自家骨は採取量に限りがある.また,人工生体材料には骨補填材と骨置換材料があり,骨補填材料は骨に置換することはない.骨置換材料にはウシ骨や珊瑚から作られたアパタイト,生体活性ガラスが主流で,骨置換には時間がかかります.

この手法は日宇歯科ではベーラー大学歯周科のエドワード教授に師事し,1990年に確立しています.

 

【写真左】1996年3月,綺麗な歯ぐきでも中は歯周病が進行し,歯根膜とセメント質が壊死をおこしています.GBR法で人工生体材料を填入し,生体膜で覆いました.この当時の最先端の GBR法 で歯周病を治します.
【写真右】骨のボリュームを作るために,チタンメッシュで骨を造る部分をカバーします.4ヶ月後に新しい骨ができあがり,歯は抜かずにすみました(1996年3月).それから9年半が経過(200年7月)していますが,未だに健康な状態です.


HTR法(歯周組織工学再生法)

破壊された歯周組織を再生させる方法で,破壊された骨組織を取り除いて洗浄し,組織工学で作りだした骨・セメント質・歯根膜を分化させる幹細胞を填入して,自己生体膜で上皮の陥入を防ぎ,歯周組織を回復させる方法です.
1. 歯肉の切開 2. 歯肉の(はくり)剥離して患部の隅々まで清潔にします 3. 歯根部のルートプレーニングと病原菌に侵された骨の表面も取り除きます 4. 自家骨(幹細胞),AP濃縮PRP,CHAの填入 5. 自己生体膜を貼る 6. 歯肉の縫合
手術の目標 : 歯科医師の満足と患者さんのある程度の満足が得られる.
問題点 : 自己組織回復能力にあまり関係なく骨の新生が可能であるが,量に個人差がある.骨芽細胞の増殖には課題点が残っている(2005年7月)ので,培養と増殖方法の検討が必要である.
現在おこなっている手法は限りがある自家骨は採取量に骨置換型の人工生体材料を混ぜて,自家血液から採取した骨成長因子を取り出したAP濃縮PRPで骨成長を促し,約3ヶ月程度で骨ブロックを造ることに成功している.現在の手法では最も感染や遺伝子変異のない安全で骨造成可能な歯周組織再建法です.


細胞シート法(歯周組織工学再生法)

患者さんの歯根膜を細胞シート上で培養し,破壊された歯周組織を再生させる方法で,破壊された骨組織を取り除いて洗浄し,組織工学で作りだした骨・セメント質・歯根膜を分化させる幹細胞を填入して,自己生体膜で上皮の陥入を防ぎ,歯周組織を回復させる方法です.
1. 歯肉の切開 2. 歯肉の(はくり)剥離して患部の隅々まで清潔にします 3. 歯根部のルートプレーニングと病原菌に侵された骨の表面も取り除きます 4. 細胞シート上に培養された歯根膜細胞を歯周病で破壊されたセメント質に貼付けます 5. 歯肉の縫合
手術の目標 : 歯科医師の満足と患者さんのある程度の満足が得られる.
問題点 : 歯根膜細胞の増殖には課題点が残っている(2007年1月)ので,培養と増殖方法の検討が必要である.
大学でも一部機関で培養がおこなわれているが,一般的には試行段階であり.保険はきかず高額である.


歯周病のQ&A

歯ぐきから血が出るのは?

歯が沢山残っている人は歯周病の初期症状です.歯が何本しか残ってい無い人の場合は進行した歯周病の可能性があります.また,血がなかなか止まらない時など,血液疾患の場合もありますので直ぐに治療してください.

歯ブラシしたときに歯肉から血が出る?

先の場合と同じで,歯肉炎か歯周病です.また,歯ブラシで歯肉を身がく際に,歯肉に加える力は200g以内ですので,どのくらいの力をいれて歯磨しているか調べてください.

歯肉の色が赤く,少し腫れた気がする?

少し黒っぽい色をしています.健康である歯肉は引き締まっていますが,歯肉炎や歯周病の人は歯と歯の間の歯肉が少し腫れたようになっています.この場合は歯肉の内側に歯石がある場合が多く,歯科医院でプラックコントロールをする必要があります.

口の中がネバネバするし,口臭が気になる?

口臭の原因の多くは胃などからくる場合が多いのですが,人と会話している場合にお互いが臭いを感じたら口臭の可能性が高いでしょう.口臭は歯周炎や舌の表面についている舌垢からが大多数で,歯磨と同時に舌垢の清掃もしてください.

硬いものを食べると歯がういた気がする?

歯周病が中程度に進行した可能性があります.早急に歯科医院でプラックコントロールをしてください.その歯の寿命が近いことを示しています.

歯周病で歯が少し動く状態は治りますか?

現在はGBR(骨誘導法), HTR(骨再建法)という手術を行なっています.中程度までの歯周病には有効ですので是非,手術を受けてください.日宇歯科の手術時間は15分位です.

歯間ブラシの正しい使い方

歯と歯の間は,歯ブラシの毛先が届かずプラーク(歯垢)がたまりやすい場所ですから,歯間ブラシを使います.歯間ブラシは歯間の広さにあわせて太さの異なるブラシがあります.歯間の広さよりも太いブラシを使用すると歯肉を痛めます.

Perioとは?

「歯周病」とか「歯槽膿漏」という言葉を聞いたことがあると思います。日本ではこれらの病気を「歯周病」といっています。歯周病の学問を「歯周病学」と言います。英語ではPeriodontologyといいます。歯科界ではこの単語を略してPerio.といいます

歯周治療はどのくらいの人が必要ですか.

成人の80%以上が罹患するといわれる歯周病。ここでは皆さんに歯周病の原因,予防,治療にに関する情報を提供しております。正しい知識を身に付け,自分の歯を大切にしましょう。

歯周治療とは?

文字通り歯周病を治すのが「歯周治療」です.歯磨き指導とか歯石を取ったりするのも治療の一つですし,歯周外科手術から歯周組織再建手術をおこないメンテナンスと定期検査も歯周治療です.

歯周治療の重要ですか?

歯科の二大疾患は齲蝕(虫歯)と歯周病です。高齢者が歯を失い義歯(入歯)が必要になるのも主に歯周病で歯を失うからです。ですから歯周病を予防,治療することにより,一生自分の歯で食事をとることが可能になります。

プラークコントロール

プラークコントロールとは歯面や歯に隣接している歯肉の表面にたまっているプラー クや付着物をを防止(予防)することです.歯石を取り除き,歯石がついていた歯根の表面をツルツルにして,セメント質を生き代えらせて,再び,歯垢や歯石がついて歯肉炎や歯周炎になりにくいようにすることをいいます.
歯周病治療において,プラークコントロールを徹底しないかぎり,本当の歯科治療は成り立たないとおもいます.プラークコントロールは歯周病を治療し,予防するための,また,歯石形成を抑制するための最も有効な方法と考えます.

プラークコントロールの方法は物理的な方法と化学的な方法があります.

物理的な方法は
1. 手用歯ブラシや電動歯ブラシによるブラッシング
2. 歯間ブラシやデンタルフロスによる歯間のブラッシング  などがあります.

化学的な方法は抗生物質の投薬や薬剤配合のうがい薬よるものがあります.ファーストチョイスとしては物理的にプラークコントロールを徹底しておこなってい ただき,改善が認められないときに化学的な方法を併用することをおすすめいたします.

歯石をとったら歯がしみる(知覚過敏)

歯周病で歯ぐきが下がったり,無理な力でブラッシングをしたり,噛み合わせが不安定であったりしていると,エナメル質の内側の象牙質がむき出しになります.すると,冷たいものなどの刺激が歯の神経に伝わって,しみるような痛みを感じます.これが知覚過敏という歯の病気です.歯石除去や歯周外科処置でしみる場合がありますが,2~3日でしみなくなります.
むし歯の場合は水にしみて,次に甘いもの,温熱刺激で痛みに代わり歯髄炎になります.歯科医師に診てもらってください.

歯周外科手術をしなければならないのですか

歯周外科手術や歯周組織再建手術はP2以上の人におこないます.スケーリングやルートプレーニングではとても治らないから手術するのです.手術の時は麻酔をしますので痛くはありません.術後2~3日は少し腫れますが,痛くはありませんし,7日位で抜糸します.
手術を嫌がった人は一生懸命歯ブラシしても,3~7年くらいで抜歯になっています.手術は怖がらずに是非受けてください.

一生懸命歯ブラシをしているのに奥歯が伸びてきて,動き始めました

歯周病は咬み合わせと密接な関係があります.歯並びがよくても頭蓋骨に対する歯並びと顎の角度が重要です.咬み合わせが悪いとそこから少しずつ歯槽骨が吸収してきて,局部の歯周病になっていきます.これを咬頭緩衝による咬合性外傷といいます.
咬み合わせのチェックをしてもらってください.


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