1 むし歯(齲蝕)

【 歯の喪失の三大原因 : むし歯,歯周病,歯の破折 】

むし歯(齲蝕)と歯周病の原因と予防

1.むし歯(齲蝕)とは

むし歯とはエナメル質や象牙質が口の中のバイ菌の酸に溶かされる(脱灰される)ことを齲蝕といいます.
原因菌はミュータンス菌で歯の表面に糖質のネバネバをつくり,乳酸菌などが歯を脱灰(溶かす)します.

1) むし歯の原因と進行は

むし歯になる原因は4つあります.

(1) 砂糖 甘いものの食べ過ぎ,ジュースの飲み過ぎなど,砂糖の摂取量と回数が多いこと.
(2) 歯の質 はえたての歯は小窩裂溝などが未だ充分に石灰化してません.このような場所などからむし歯になります.
(3) 口の中の細菌(バイ菌)が多い 歯垢や歯石は約70%位が細菌,血球,剥離上皮,残渣物のかたまりです.細菌の種類によっては2時間で2倍に分裂する細菌もあり,24時間で2000倍以上になります.細菌は砂糖を栄養源とし,歯ブラシしなければどんどん増えます.砂糖の摂取回数を減らしましょう.
(4) 時間の経過 上記の砂糖・歯の質・細菌の3要素が口の中あり,時間とともに齲蝕になっていきます.

この3要素が多ければ6~12ヶ月以内に齲蝕,少なければ時間の経過とともに齲蝕となります.

2) むし歯の進行は CO,C1,C2,C3,C4で表します.

齲蝕のはじまりは CO (シーオー),次にエナメル質に限局した齲蝕をC1,象牙質まで少し入り込んだ齲蝕人をC2と呼びます.このときは少し冷たい水にしみます.
そのうち甘いものや熱いものにしみてきます.この時はC3で,痛かったり,痛くなかったりします.歯髄組織に炎症がおこると歯がずきずき痛みます.この時はで根の治療(歯内療法)で根っこの治療をしなければなりません.
そのまま放置したり,歯内療法の途中で通院しなくなると根っこだけの状態の C4となったり,顎の骨の中に骨が溶けて膿みの袋ができて,痛みながら顔が腫れます.これらの状態は保存不可能なことが多く,抜歯となります.
COとなってC3までの期間は甘いものを沢山食べて歯をあまり磨かない人は1年,ほとんど食べないで歯をよく磨く人で10~20年位です.

むし歯の進行を CO~C4 まで表したものです.学校検診でCOと検査されても大丈夫だと思わないでください.日本の食生活の中でCOはむし歯のはじまりです.甘いもの(砂糖)をいつも食べる人は半年から1年でC1,C2になります.砂糖を全くとらない人でも20年くらいでC2,C3になります.早めに治療してください.

注意 ) 学校検診は目で見て診査しますが,歯科医院ではX線で調べます.下の写真のように,COやC1と検診されても実際は C2,C2と検診されても実際はC3の場合はよくあります.ですので,学校検診はむし歯,歯周病,顎関節疾患,歯並び,腫瘍などがあるかどうかを調べており,COといわれたら歯科医院で処置してください.右下のような食生活をしていると,むし歯になるのはあたりまえです.

 

【写真左】学校検診では目で見てむし歯の進行を診査するため,軽くなる場合が多いのです.
【写真右】こんなダラダラな生活をしていたら,むし歯や歯周病にすぐに罹ります.

むし歯は砂糖の摂取量,口の中のバイ菌の量と活性度,歯の質と時間でできかたに違いがあります.
甘いものをよく食べたり飲んだりして歯を磨かなければ直にむし歯はできてしまい,進行も早いのです.
逆に,甘いものを飲んだり食べたりせず,歯ブラシを効率よくおこない,フッ素洗口(4~12歳まで)やキシリトール100%を食べていると,むし歯はできにくいのです.

むし歯の治療もせず,痛い時だけ通ってきても・・・・結果は !!

必ず,治療は最後まで通いましょう!!

2.むし歯の予防は

3~4歳頃に治療にきた幼児に「何故,虫歯になるの」と尋ねられ,「甘いお菓子(アメ,チョコレート,キャラメルなどいつまでも砂糖が口の中に残るお菓子)を食べないこと.ジュースもやめてお茶を飲むこと.お茶なら緑茶,ウーロン茶,ハーブ茶,ウーロン茶・・何でもいいですよ,お茶類にはフッ素が含まれていますので.それから,歯ブラシは毎日するように」と親共々に1度説明しただけで,その幼児が高校生になって再び来院した時には虫歯は1本もなく,歯ぐきもきれいで少しだけ一部に歯石があった・・多くないですけどそんな子がいます.

1日にとる砂糖の回数を制限してください.甘いものを食べるたびに歯みがきをしても予防の効果はあまりありません.歯と歯の間にむし歯はできます.アメやガムを頻繁に食べたり,ジュースを何回にもわけて少しずつ飲んだりしないことです.どうしても食べたいのなら一度にとることがいいでしょう. また,アメやガムをやめられない人は甘さが少しことなりますが,キシリトールを選んでください. また,フッ素は歯質の強化をします.現在市販の歯磨瑚のほとんどに微量のフッ素が入っています.

(1) むし歯予防の自己努力

  1. 甘いお菓子(アメ,チョコレート,ガム,キャラメル,トフィー,ヌガーなど)を控え,食べる回数も減らします.ジュース(砂糖は約20~30グラムはいっています)など飲んだりしないで色々な種類のお茶を飲むお茶には微量のフッ素が入っています).どうしても食べたかったら一度に食べてください.尚,キシリトールはむし歯になりにくいと考えられています.
  2. 歯ブラシは効率よく磨く(チョイ磨き,甘いものを食べて歯ブラシしても歯と歯の間にむし歯ができます)
  3. 4~12歳まではフッ素洗口を心がける
  4. 歯科定期検診に6ヶ月に1度はきて,カリエスやブラッシングチェック,予防をおこなう

(2) 齲蝕予防 ( フッ化物の応用,キシリトール,ブラッシング ) をしよう

【写真右】こんな小さな子も歯ブラシできてます.磨き残しのところを親が磨いてやってください.

フッ化物は歯の歯質を強化するといわれています.また,初期の齲蝕はフッ素のミネラル置換作用で修復するともいわれています.米国や韓国の一部の州や都市では齲蝕予防のために水道水の中にNaFを1ppmを入れてあります.米国ではフッ素洗口液(フロライドリンス)はスーパーで手軽に買えます.日本でもオラブリス,ミラノールなどの製品が歯科医院で買えますので,4~12歳まではブクブクうがいをしましょう.また,お茶類にはフッ素が微量入っていますので,緑茶,ウーロン茶,麦茶,ジャスミン,紅茶などなんでもいいです.
キシリトールは白樺やトウモロコシから作られ,齲蝕抑制効果があります.砂糖は細菌の栄養素となるのですが,キシリトールは細菌の栄養素とはなりませんので,細菌が分裂できなくなります.フィンランドではいち早く取り入れ12歳でのDMFT(齲蝕罹患歯数)は 0.8と世界最高水準です.日本では CO という基準ができたために少しは低くなりましたが,それでも 2.5~3.0と恥ずかしい状態です.
歯ブラシを続けることで,歯にくっついた細菌をおとすだけでなく,舌や口の粘膜の細菌も減少できます.
砂糖は制限してください.回数を多くとると齲蝕,歯周病だけでなく,生活習慣病にもなりますよ.

以上のことをおこなって,むし歯にならないよう,減少させるよう努力しましょう.

A. フッ化物の応用

フッ素が入っている食品

フッ素は広く天然界に存在し.フッ素は穀物,野菜,海産物,お茶等に微量含まれ自然界に広く分布しています.しかし,フッ素量は1日最大3mg/成人以内ですので多く取り過ぎないようにコントロールしてください. ( 日本の水道水には0.05~0.2ppmが自然界に含まれます.)
穀物 ; 0.5~2ppm,加工品 ; 0.2~1.5ppm,いも類 ; 0.1 ~1ppm,豆類 ; 0.5~1.5ppm,砂糖類 ; 0.5 ~2ppm,海草類 ; 0.5~1.5ppm,野菜類 ; 0.1~0.5ppm,果実類 ; 0.1~0.5ppm,ビール ; 0.8ppm,魚貝類の大部分 ; 1~9ppm,小海老 ; 10~30ppm,うに ; 10~20ppm,めざし・にぼし;7~40ppm,するめ ; 1~3ppm,塩 ; 2~20ppm,緑・紅茶 ; 0.2~0.8ppm,牛乳 ; 0.1~0.3ppm.

フッ素の作用

フッ素は3つの働きがあるといわれています.
,フルオルアパタイト形成,ミネラルの置換作用による結晶の改善,石灰化の促進によって歯質強化・耐酸性向上およびフッ化物は細菌の酵素作用の抑制して歯を溶かす(奪回する)酸産生の抑制すると考えられています.

フッ化物の毒性

急性毒性
急性毒性 2mg/kg
急性中毒量(体重10kgなら) 20mg/10kg
致死量 40~45mg/kg 400~450mg/10kg
体重10kgなら、歯磨剤20gで急性中毒量になる計算で,症状はフッ素特有の症状ではなく一般的に毒物中毒にみられるもの.

慢性毒性
・歯のフッ素症(斑状歯): 飲料水に1~2ppm以上のフッ素イオンを含む地域で生まれ育った(6~8歳くらいまで)者に発生
・骨軟化症 : 日本では8ppm前後が症状の現れる境界域
・臓器への影響 : ラットの実験では100ppm程度の濃度 8ppm程度では異常は認められない

フッ素については反対意見も聞かれます.それは有効量が極微量なためです.通常の料理には砂糖や塩をコップに入れてグラム単位で測ったりしますが,フッ素はその10,000分の1で量を測るので非常にわかりづらくなります.わかりやすく言いますと,風呂桶にいっぱい入った水に大さじ1杯の NaF を混ぜて,そこから5ccを取り出してうがいで充分な効果が現れます.
ppm単位で多くてもダメ,少なくても効果がないという至適濃度幅のために取り扱いが難しいことから歯科医院での年2回塗布,歯磨剤の使用に関してはムシバ予防に効果的であると思われます.

フッ素洗口の手順
フッ素は必須成分がとても微量なために単位には気をつけてください.製品化してあるものはちゃんと計算されていますので,注意事項を読んで正しく使用してください.


注意 ) NaFの洗口や塗布での急性中毒や慢性毒性の発現はありません.もし,誤って過量を与え,腹痛等の偶発を生じた場合は牛乳を飲ませてCaと結合させます.後は24時間以内に自然排泄されます

B. キシリトールを食べよう

キシリトールってなに

キシリトール(ブドウ糖,麦芽糖などに水素を加えて還元した糖アルコールの一種)はシラカバや樫などの樹木やトウモロコシの芯から得られるキシランを還元して製造されます.糖アルコールの中では最も甘く,砂糖と同じと言われています.また溶解時に吸熱反応(砂糖の8倍)が起こるので口の中で冷涼感が得られるのも一つの特徴です.代謝はインシュリンに依存しないため糖尿病の人が摂取してもよいとされています.
キシリトールの安全性は厚生省より食品添加物として認可され, アメリカ、カナダをはじめ世界38カ国で医薬品用途で認可されています.1日の許容摂取量を特定しない 安全性の高いカテゴリーに分類されています.しかし,カロリーは3.0kcal/g(砂糖は4.0kcal/g)であり,食べ過ぎると太ります.

キシリトールの働き

口腔内においてキシリトール入りのガムを長期間食べ続けるとミュータンス菌の数が減るとの報告があります.キシリトールは酸をつくらないため,歯垢pHを下げので歯垢中での細菌が耐酸性の強いミュータンス菌より他の細菌が優勢になってくるため,数が減るのではないかと考えられています. キシリトールはホスホエノールピルビン酸依存性ホスホトランスフェラーゼ系によって取り込まれ,キシリトール5リン酸となるが ミュータンス菌はそれを代謝することができないために菌体内蓄積し,増殖を抑制することが報告されていまが,キシリトール存在下で継代培養されたミュータンス菌はグルコースを糖源とした増殖阻害に耐性を持つようになります.(Gautheier,L 1984 .Caries Res.)
歯を構成するハイドロオキシアパタイトの結晶からカルシウムやリンなどのミネラル成分が溶け出して結晶構造が崩れる現象を脱灰といいます.一度脱灰がおきても中性環境では唾液中のリン酸やカルシウムがそこに沈着して結晶のミネラル成分が回復します.この現象を再石灰化と呼びます。 キシリトールを含むガムを噛むと再石灰化が促進されるとの報告があります.これはキシリトールの作用というよりはガムを咬むことにより唾液の分泌が促進されて歯垢のpHが上昇して,再石灰化が促進されたのではないかと考えられています.

・歯垢(プラーク)中ではほとんど発酵されない
・キシリトールからは有意な酸や多糖類が産生されない.
・むし歯の原因菌のミュータンス菌やある種の細菌を化学的に阻害する
・唾液分泌の促進
・口腔ないにおける塩基性等価物の産生促進
・カルシウムとの複合体形成
・唾液タンパク質の水和層との相互作用

C. 歯科医院で定期検査と予防をしましょう

自分で歯磨きしていても,誤った方法などしがちです.また,鏡で口の中をのぞいてもわからない場合があります.歯科医院で6ヶ月ごとに定期的に検査しましょう.また,齲蝕予防処置のシーラントは食べ物にもよりますが,通常は1度シールしたら10年位はもちます.

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