顎関節症の治療

【顎関節症の原因と治療】

日宇歯科・矯正歯科では「増齢に伴い咬合による歯の喪失がなく,食生活や口腔系の健康や快適性を損なわず,顎口腔機能異常 (TMD) による局所疼痛,不和感,不定愁訴あるいは全身随伴症状がなく全身健康を維持することが重要である」と考えています.歯列矯正編で説明していますように,人の生涯で約40%は顎関節症による不定愁訴や全身随伴症状を訴える可能性があるのです.
この内,口が開けられない,以前に開けられなかった人は約5%もいます.
さらに歯並びがきれいな人でも顎関節症なってしまうことがあります.特に,中学,高校生に多くみられるようになりました.これまで原因は不明でしたが,長年の分析によって原因をつきとめ,2006年6月10・11日 第24回日本顎咬合学会学術講演会 並びに 2010年6月12・13日 第28回日本顎咬合学会の両シンポジュウム基調講演で「顎関節症3-b(3,4型)者と機能正常咬合者の比較による咬合由来の計測の診断への応用」および「骨格系を基準とした咬合による顎関節症のリスクとは? そのみわけかたとインプラントを用いた治療法」でそのメカニズムを発表し,賛同していただける先生も多くなりました.

歯科において顎関節症は齲蝕,歯周病の次に多い第3の歯科疾患です.加齢に伴い発症の予防として,若い頃から審美と機能を兼ね備えた治療が必要です.

以下は,ちょっと余談になりますが,顎関節症の診断と治療に応用できる手法を報告した抄録です.この日本顎咬合学会は会員数が6000名を超え,日本最大の学会で,当日の学会場には土曜というのに約4000名の歯科医師が東京国際フォーラムに集まり,8会場で同時進講し,日曜日にはさらに登録したということで,私も驚きました。


2006年6月10日11日,第24回日本顎咬合学会学術講演会,シンポジュウム基調講演
「顎関節症3-b(3,4型)者と機能正常咬合者の比較による咬合由来の計測の診断への応用」

日本大学松戸歯学部組織・発生・解剖学教室,咬合機能研究会,日宇歯科・矯正歯科(佐世保市開業)
大久保 厚司

1. はじめに
Rocabadoの報告にある舌骨三角は頸椎彎曲に関与し,オトガイ結合部を変化させることで頸椎彎曲の是正と疼痛領域の痛みの発現をコントロールすると報告している.さらに整体学では下顎運動の中心はX軸方向に第1,2頸椎にある歯突起を中心として,下顎運動エネルギーは上顎歯から頭蓋に過剰な力を与えず分散する.しかし,その運動ベクトルに偏位があると体軸は彎曲偏位し,顎関節部や頸椎に影響を与え,継続するとその支配領域の神経並び動静脈の圧迫による全身随伴症状を伴うと考える.このように,下顎位を体軸のバランサーと捉えると骨格系における咬合診断に重要である咬頭嵌合位咬合平面(ICP.OP.)のX軸延長線,下顎角(Go Angle)が顎関節や頸椎に及ぼす前後的偏位に関与することから,機能正常咬合者群と顎関節症?-b群をセファロ計測で比較し,更に,臨床応用に役立つカンペル氏平面(Ca.P. to O.P.)との関係ならびにRocabadoの報告にある頸椎彎曲によるTMDの発現の可能性を検討したので報告する.

2. 方法
セファロ計測において, ICP.OP.のX軸上での延長線の終末と咀嚼筋群の調和にGo angle を計測とした.尚,臨床的にはOPの延長とカンペル氏平面のなす角度をCa.P. to OP.として表した.機能正常咬合者群は性別を問わず50歳以上,全身的疾患,TMD,歯科的修復処置の既往歴がなく,歯周組織は生理的範囲内でかつ舌運動異常のない者,顎関節円板前方脱臼者(TMD-3b,4型)群はMRIにて確認した若年者16歳以上の者をセファロ計測でそれぞれ比較した.交叉咬合や片側咬みは対称から除外した.また,Rocabadoの報告にある舌骨三角を術前と術後で検証しTMDとの関連性を検証した.

3.結果および考察
機能正常咬合者群に共通する事項はCa.P. to OP -8°,Go angle 120°と一致し,ICP.OP のX軸の延長は第1頸椎から第2頸椎と重複した.また,TMD-?b群に共通する事項はCa.P. to OP -10°,Go angle 130°以上であり,咬頭嵌合位咬合平面のX軸の延長は頭蓋骨下方の乳状突起上方に位置していた.また,咀嚼サイクルは異常サイクルであつた.これらのことから,クォードラント理論の咬合高径の不足で下顎運動の中心が歪むとの解釈より,ICP.OP.の傾きによる下顎運動ベクトルに,Go angleが咀嚼筋群に異なる方向性ベクトルの総和である運動量を変化させ, TMDの発症原因や体軸彎曲に影響を与えると考える.Rocabadoの報告にある舌骨三角は形態発育的なものであり,TMD発症者の矯正治療や補綴学的治療はさほどの変化はなく,疼痛領域の痛みの発現には関与が推測されたが,TMD由来の不定愁訴にはあまり関与しないように思われる.さらに,Ca.P. to OP.はセファロ上と顔面計測では3°異なることからセファロ計測でのCa.P. to OP.は,Go angleを基準として捉え,咬合治療に有益であることが示された.また,この方法はこれまで皆無であった顎関節症の診断と治療に応用できることが推定された.

                                                                                                                             

2010年6月12・13日 第28回日本顎咬合学会 シンポジュウム基調講演
「骨格系を基準とした咬合による顎関節症のリスクとは? そのみわけかたとインプラントを用いた治療法」

日宇歯科・矯正歯科(佐世保市開業)  大久保厚司

目的 : 顎関節症の症状は段階的に進行しない為,症状や原因の研究は少ない.症状は歯列と咬合平面が頭蓋・頸椎の骨格に左右される運動ベクトルに関連が示唆されることを過去に報告した.今回,セファロ分析とMRI画像による臨床的な診断法の確率性とそれぞれの症状に応じた治療法を報告する.

方法および結果 : 1) 急性時と慢性時における臨床とMRI画像診断では急性時の診断誤差が大きかった.また,慢性時の最大開口量と関節円板脱臼は一連の関連性が認められた. 2) 前・側方セファロ分析による咬合平面と頭蓋骨や頸椎の位置的関係から,下顎挙上時に働く筋群とのベクトル量で表した(分析にあたり,機能する位置を計測点とした).  ① 側方セファロでは歯列分類に基づく機能する咬合平面の後方延長線が歯突起上にある場合はⅠもしくはⅡ型に留まるが,その延長線が頭蓋骨に至る場合はⅢ型に至る場合が90%で,これらは第一第二の頸椎弯曲を伴い,不定愁訴も異なった.また,関節頭の形態変化もしくは両側の関節円板脱臼が認められる場合が多かった.② 前方セファロでは眼窩下縁線と上顎6⏊6の咬頭頂線の平衡性並びに両下顎枝の長さに注目し,側方セファロで計測できなかったⅣ型の関連性か認められた.

症状に応じた治療法の紹介 : 上記の結果からそれぞれの症状に応じた治療手順をスプリント療法,矯正治療,補綴治療およびインプラントを用いた咬合治療法を紹介する.


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