1 顎関節症とは

1. 顎関節症(TMD)とは

1) 顎関節症とは顎の位置と咬み合わせた位置がズレることで生じる疾患です.

咬み込んだとき顎の位置がズレることで顎関節症,咬み込んだとき歯が動くことで歯周病となります.
自己診断するには,目を閉じて安静にして,口を大きく開けゆっくり口を閉じ,最初にどこか1ヶ所の歯と歯がぶつかった位置から,咬み込んでください.全体の歯が最初からあたっていれば正常で,最初にどこか1ヶ所の歯と歯があたった状態で,歯全体があたるように咬み込んだ時に,顎がズレるようであれば顎関節症になる可能性は高いと考えます.

(上図) 口を開けるとき音もなんの抵抗もなく,約40mm以上(正確には38mm以上)開けれれば正常です.

(下図) 口を開けるとき耳のところでコリッと音が鳴る(クリック音)がすると顎関節症2と4型です.これは関節円板が脱臼する前の徴候です.
口を開けると痛い,疼痛時(急性時)は21mm位しか口は開きません.痛みがなくなって(慢性時)も口が37mm以下しか開けられない場合は顎関節症分類3aと3b型です.それ以上 口を開けようと思えば特殊な歯列矯正をおこなう必要があります.

また,口が素直に開けられなくて顎をズラしながらしか開けられない場合は顎関節症4型です.
耳の中でカナリアが鳴くなどと言われる人は顎関節症のその他に分類されます.

注意) 早急に顎関節症を治せる歯科医院で診断してもらってください.顎関節症は放っておいても治らないし,全身随伴症状がでます


2) 顎関節症(TMD)の症状

症状は人により不規則性です.これを不定愁訴と言います.
最初は耳のちょと手前で口を大きく開けるとコリッと音がしたり,耳の周辺が少し痛みます.これが続けばやがて口が21~24mm位しか開けられなくなります.この時は関節円板が脱臼(はずれた)時です.
ほとんど共通している症状は 顎関節痛もしくは顎関節周囲の痛み(耳の孔の周囲痛),雨が降る前の片頭痛,肩凝り,肩の周りの張り,耳鳴りやめまい等で,進行すると腱鞘炎になります.また,腰痛を伴う場合も多くみられます.

訴えは様々で,人により異なります.これを不定愁訴といいます.

顎関節症をしらずに放置していると全身的に体調が崩れて全身随伴症状がでてきます.
(1990年6月~1995年1月まで日宇歯科・矯正歯科に来院し,血液検査,心電計などの診査機器による検査では異常値はほとんど認められずTMD由来の不定愁訴を訴える患者32名の徴候について調査)

全身随伴症状として

神経症候
片頭痛,頭重感,肩凝り,めまい,耳鳴り,不眠,脱力手指感のしびれ感,腰痛等

循環器症候
動悸,徐脈,頻脈,脈拍の変動,血圧の動揺等

消化器系症候
悪心・嘔吐,口渇,心窩部痛,口臭,嚥下困難,反芻運動等

局所徴候
鼻炎,喉頭異物感等

全身徴候
全身倦怠感,易疲労性,のぼせ,熱感,冷え症,発汗障害,神経性皮膚炎等

※ これらの症状は更年期様症状と類似しています.内科,脳外科などの検査で血液検査,心電図やMRIに異常がなければ,顎関節症による全身随伴症状 (人により様々な不定愁訴 )としてあらわれます.例えば,開口障害,片頭痛,肩こり,血圧の動揺,期外収縮,口渇,嚥下困難,喉頭異物感,全身倦怠感,神経性皮膚炎など)が疑われます.診断の必要があります.


3) 顎関節周囲と顎関節症3型の解剖図と関節円板の脱臼(顎関節症3型)

正常な 顎関節部の関節円板は顆頭の上前方に位置していますが,顎関節症3型では顎関節円板が顆頭より前方に脱臼しています.顎関節円板がはずれて(脱臼して),顎関節に痛みを伴い,口が開けられなくなります.
口を開ける時に耳の少し手前 ( 耳珠 後縁 13mm )の顎関節からコリッと音(クリック音)がする人は関節円板の動きが異常で,口の開け閉めの時に関節頭(顆頭)と接触しクリック音が鳴ります.これが経時的に続くと,顎関節の関節円板が脱臼して口が開けられなくなり前兆ですので,直に顎関節治療ができる歯科医院で診断してもらってください.


4) 顎関節疾患と顎関節症

顎関節疾患

顎関節疾患
(1) 発育異常 : 下顎関節突起異常,下顎関節突起発育異常,下顎関節突起肥大, 先天性二重下顎頭
(2) 外傷 : 顎関節脱臼,関節突起,下顎窩の骨折,顎関節部の捻挫
(3) 炎症 : 化膿性顎関節炎,顎関節リウマチ,外傷性顎関節炎
(4) 腫瘍
(5) 顎関節強直症
(6) 代謝疾患 : 痛風 etc.
(7) 顎関節症 : 咀嚼筋障害,慢性外傷性病変,顎関節内障,退行性病変(変形性顎関節症),精神因子による.
いわゆる顎関節症
( 顎口腔機能異常 / TMD ) の主訴
(1) 顎関節痛
(2) 顎関節雑音
(3) 顎運動障害 (慢性外傷性炎,関節包弛緩,滑膜炎,筋拘縮を含む)


5) 顎関節症は全身にどんな影響を与えるの?

咬み合わせがズレる(顎位の偏位)と顔がゆがみ,首,背筋,腰の骨が歪みます,また,足の長さも違ってきます.下の顎は体軸のバランサーと考えられ,運動,歩行,生活の中で体を動かす時に体重移動のバランスをとる働きがあります.咬み合わせが崩れるとこのバランスがとれなくなり,顎関節症,首の痛み,腰の痛み等の症状がでます(左した図).咬み合わせがいいということは非常に重要です.
また,良く咬めるということは硬固物(豆類,氷,タネ,アメ,乾燥食品など)を咬むことと勘違いしている人が多いのですが,硬固物をよく食べていると歯を割ってしまうだけではなく,顎関節症の1型や2型になります.良く咬んでということは,硬固物ではなく食事の際に一塊を30回良く咬むことで,食物を小さくして充分に唾液を出して咀嚼することをいいます.
このように充分な咀嚼・咬むことで脳の5つの連合野のうち,側頭連合野と右側の前方連合野を活性化させます.側頭連合野は形の認識,記憶,聴覚,言葉,文字,コミュニケーションに関与し,前方連合野は人間らしさ等・人の感情の基本をなす部分ですので,咬むことで刺激を送り,より活性化させます.言い換えますと,咬むことでストレスを緩和させる働きがあります.また,側頭連合野は視覚や情報に関した後頭連合野,人間らしさの前頭連合野,運動連合野等の中継として働き,脳の相互的な働きを高めます(右下図).尚,咬み締めは歯の破折につながります.


6) 顎関節症の原因は

日宇歯科・矯正歯科では顎関節症の原因を以下のようにとらえています(2005年7月).それに伴う研究推論を構築し,下記の事項を守って顎関節症の治療をしてきました.そして,下記 a~c の理論が出来上がりました.本医院で顎関節症の治療の成功率は100%,再発率は 6% という成果をおさめています.また,再発しても症状は軽く,バイトプレーンを入れておくと1日程度で治ることが多いです.

a. 咬合異常による顎関節部の緊張や炎症の周囲器官(外・内側翼突筋等の咀嚼筋群や鼓索、迷走神経)への波及によること,頭蓋骨格系と咬合平面の違が与える影響,特に咬合が関与している交叉咬合,早期接触等の歯列不正による前方・側方・後方運動抑制による下顎位の偏位や下顎枝の発育異常が及ぼす頚椎、胸椎及び腰椎へのヨーイング,ピッチング等の三次元的な継続荷重による異常彎曲とその神経支配下に局所徴候,神経症候や消化器系症候があらわれる可能性があること. (1991年~1995年まで国内,ドイツ,台湾,韓国,インドでおこなわれた国際学会で数多く発表した)

b.咬合異常による側頭骨の偏位から蝶形骨へ歪や圧迫が波及することより脳脊髄液が変動し,橋,視床下部等に影響を与え,循環器症候を発現する可能性があること.その徴候が長期に持続することで全身徴候の可能性が考えられると報告している.(1995年~1998年まで国内,台湾,韓国でおこなわれた国内・国際学会で数多く発表した)

c.咬合平面(咬頭嵌合位)の延長線が第1~2頸椎(歯突起)より大きく上方にある場合.また,下顎角が130°を超える場合に咀嚼筋群の不調和を生じて生体バランスの恒常性を失うことにより,不定愁訴の発現となる.
(2005年6月23日の福岡歯科医師会館でおこなわれた機能咬合学会で発表,2006年6月10日・11日,第24回日本顎咬合学会学術大会(東京国際フォーラム)と 2010年6月12・13日 第28回日本顎咬合学会 (東京国際フォーラム)で2回にわたり,シンポジストとして講演しています)

歯列矯正編で骨格系1~3型のお話をしましたが,体系的に2型は猫背,3型に近い骨格はヘルニヤになりやすいように背骨と要骨が曲がっています.
これらの骨格を彎曲させる最も大きな原因が咬み合わせです.咬み合わせは体軸のバランサーであり,咬み合わせが狂うと肩凝り,耳の周辺の痛み,片頭痛などの不定愁訴とそれに伴う全身随伴症状が現れます.その症状が長く続くと体調が大きく崩れたり,疼痛や全身随伴症状の為に精神集中力が欠如して個人的にも,社会的にもうまくいかず,ついに精神的にマイってしまうこともあります.
これらの症状がある人は,内科や脳外科で血液検査や脳梗塞などの異常がないかどうかを調べてください.全身的な疾患がない場合は咬合治療が有意義である場合が多く,咬合診査をおこなってください.

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