3 歯の破折

【 歯の喪失の三大原因 : むし歯,歯周病,歯の破折 】

3.歯の破折

こども期はぶつけたり,転んだりして前歯を折ることが多い次期です.歯冠部が折れただけなら歯科医院でさし歯(補綴物)で修復できますが,歯根が折れた場合は自己修復できずに痛み,腫れが続き抜歯になります.
13歳位からはスポーツなどで歯を割る人がいます.特に,空手,ボクシング,柔道などの格闘技やラグビー,サッカー,バスケット,ホッケー,アイスホッケーなどで多いようです.より安全を得るためにスポーツ用のマウスガードをしてください.
40歳から70歳位で歯の欠損が少なくて咬み合わせのいい人は,若い頃よるもはるかに咬みしめ,噛み込みや硬固物食品(豆類,タネ類,乾燥食品,氷,アメなど)を好んで食べることが習慣になって,臼歯部の歯の根っこにヒビがはいったり,折れる人が多いようです.歯科医院で処置をして3日以内で痛みが治まる場合は歯根は自己修復をしますが,それ以上痛みが続く場合はヒビがはいっていますので歯を抜かなければなりません.
15年程前までは歯周病で歯をなくす人が多かったのですが,最近は歯が極力残せるようになったこともあって歯を割る人が多くなってきました.歯の根にヒビがはいったり割れたりしたら,その部分にもよりますが,歯を抜かなければなりません.仮に歯がなくなったとしてインプラントを入れても硬固物を噛む癖があれば,歯槽骨が壊されて2~5年でどのようなインプラントもダメになります.

下の写真のように明らかに破折したことが解れば診断は簡単なのですが,歯根にヒビが入った状態はX線(レントゲン)では見えませんので,歯内療法で鑑別診断がつきにくい,難症例です.

実際に歯根が割れて,痛みが止まらず抜歯になった症例です.歯槽骨の状態から診て,恐らく奥歯も同様なことが言えるのではないでしょうか.

      

健康な歯もまっぷたつに割れます.気をつけましょう硬いものは!!

歯根のヒビ(左)や破折(右).骨と違って歯根には血管系や修復蛋白がないためにヒビかはいったり,割れた歯はし自己修復はできない.
臼歯の破折の原因は過剰咬合で,硬固物食品(豆類,タネ類,乾燥食品,氷,アメ,軟骨など)を好んで食べることが習慣になっている人に多いです.

くれぐれも硬固物を噛み砕く癖がある人は気をつけてください.
この癖がある人は,インプラントを入れても周りの骨が溶けてきて,無駄目になります.


A. スポーツしている人はスポーツ用のマウスピース,
歯ぎしりにはナイトガード,
睡眠性無呼吸症候群には耳鼻科からの依頼で気道開拡用のマウスピースを

  

歯ぎしり,転んだり,スポーツをしていて前歯を折ってしまいます.
歯ぎしり防止のナイトガード(左),スポーツ用のマウスピース(中,右)が必要ですね(自費になります).


B. 片側咬み,歯ぎしり,くいしばり,噛み込み,硬固物を噛む癖はやめましょう.

歯は生体でできる結晶です.歯冠は唾液中のカルシウムやリンなどのミネラルなどで少しは修復はできますが,口呼吸の人などは口が乾燥していますのでよくありません.歯の根は小さなヒビはセメント質で修復できるのですが,痛みが止まらないような場合は修復は不可能です.
片側咬み,歯ぎしり,くいしばり,噛み込み,あまりに硬いものや硬固物をよく食べる人は歯を割りますので気をつけてください.また,ビンの栓を歯で抜いたりしないようにしてください.
歯ぎしり,くいしばり,噛み込みが強い人はバイトプレーンの装着も必要でしょう.

日宇歯科でも20年前に比べて,歯周病が原因で歯を抜くことは非常に少なくなりました.定期検診で歯周病の管理をしている人はコントロールが容易で,10年単位で安心して管理できます.しかし,歯周病で歯を抜かなければならない人は,やはり自己管理不十分,定期検診に来ない,腫れたときだけくるので取り返しがつかないことが多いのです.
だだ,増えてきているのが歯根の破折,つまようじによる自分で造った歯周病です.



C. 歯が破折しやすい硬固物の種類

本医院の患者さんで実際に歯の破折になった硬固物です.

・豆類 : ピーナツ,アーモンド,油で煎った豆類
・タネ類 : 梅干しのタネ,ひまわりのタネ,トウモロコシのタネなど.
・乾燥食品 : 乾燥バナナ,ビーフジャッキー,スルメ,酢コンブなど.
・氷を噛み砕く,冷凍カズノコ,アイスキャンディー
・カタパン,硬い煎餅やオコシ
・キャラメルやヌガーをよく食べる(特に治療した詰め物が外れたり,歯が割れます)
・アメを噛み砕く,
・鳥や豚の軟骨
・いりこ,煮干しを小さいときから食べている人も,やがて歯は折れます


・カニ等の殻を歯で噛みちぎる
・ビンの栓を歯でこじ開ける

・朝起きたら歯や顎が痛い ・・・ 歯ぎしり,くいしばり等の異常習癖


D. 何故,硬固物を好むのでしょう ?

硬固物を何故好むのか?  ピーナツなど食べはじめたら,なかなか止まりませんよね.人によっては満腹になるまで食べてしまうこともあります・・・顎関節や歯に痛みがあれば食べないのですが.
このことは適度な大きさ,硬さのピーナツ等の豆類は歯根膜,顎関節,咬筋,側頭筋などの神経から中枢に適度な刺激を送り,脳内物質をだしてストレスを解消させる働きがあります.特に,f-MRIで脳の活動を調べますと,よく噛むことは脳の運動野の前頭連合野(特に右側)と側頭連合野に刺激を送ることが日大松戸歯学部で判明しました.規則性のある人は特に硬固物を好みがちです.これは脳内物質のセロトニンの分泌を活性化させるのに有効なリズム運動のひとつの行為なのかもしれません.セロトニン分泌は不規則な生活を送っていたり,日光に当たる機会が少ないと,分泌が少なくなります.自転車をこぐ,歩くなど,キシリトールガムを咬む(ガムを咬みすぎても歯は割れることがありますので適度に・・),誰でもできることで十分ですので,毎日20~30分間ひたすら続けることが肝要です.
また,アメ類は砂糖が入っており,脳内物質の グルタミン酸が心地よい感覚を産み出し,おまけに適度な大きさ(豆類くらいの大きさ)になると噛み砕きます.お菓子を欲しがるこどもが甘えん坊たる由縁はL-グルタミン酸にあるのかもしれません.
同様にクレンチングなどの噛み締める行為も側頭連合野に適度な刺激を送っていると考えられています.

しかし,人の歯を含めて全ての脊椎動物の歯はカルシウムやリンなどのミネラルの生体結晶であるハイドロキシアパタイトです.歯が生えた後,エナメル質は唾液のミネラルによって,歯根は歯根膜の血流を介して少しは再生しますが,過度な力が加わると歯根にヒビが入ったり,割れたりします.ほんのわずかなヒビであれば再生するのですが,肉眼で見えるようなセメント質のヒビは生体で再生することはできません.咬むと痛い,歯ぐきが腫れる,歯が動くという症状がでます.

通常,歯根破折は50歳以降に多く観られます.
歯は若い頃よりも石灰化が進み,歯髄腔は細くなります.歯根膜の厚さや弾力に違いがでてきたり,既に歯の欠損や修復した歯もみられます.高齢化に伴って歯がもろくなるというより,咬み締める回数が多い,より硬固物を好むことで歯根破折につながると考えます.
ストレスの発散は若い頃は体を動かすことで補うことが多いのですが,高齢になると同じようなストレスに少しずつ対応できなくなってきますし,体は動かさなくなります.また,社会的地位や立場からストレスの種類がより精神圧迫につながるのかもしれません.いずれにせよ,知らず知らずにより咬むことなどで側頭連合野に刺激を送り,ストレスを解消しているのかもしれません.その結果が,歯根の破折です.気を付けましょう.

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